第5章 守りたいもの 錆兎
村田さんが動けない今、どうにか一人で倒すしかない。
大丈夫……出来る!
私は日輪刀を構え直した。
『さぁお前で最後だ。お前も針で動けなくしてやろうか…』
鬼が左手の指先をスッと私に向ける。
あの針さえかわせれば……きっといける!
ビュッと針が出るのと同時に私は動き出した。
ービュッ…カンッカンッ…ビュンッ…
避けきれない針は刀で弾き、横から来る爪も切りながら鬼との間合いを詰めていく。
針をかわしながら横へ移動したり飛び上がったりと動き回ると、針が当たらない事に鬼が段々とイライラして来たようだ。
『おのれちょこまかとっ……この小娘が‼︎』
怒りに任せた攻撃は命中率が下がり、針は私に掠る事なく後方へ飛んで行く。
そのまま刀の届く所まで間合いを詰めた私は、伸ばされた鬼の左腕を切り落とした。
『…ぎゃっ…!』
切った!
そのままの勢いで私は技を出す体勢を構えた。
「水の呼吸 拾ノ型 生生流転!」
しかしその時、鬼は冷やかに笑っていた…私を見下すように。
『遅いな…』
「……!」
私の技を出す速度よりも、鬼の爪の方が僅かに上回ったのだ。
ーザシュッザシュッ
「…いっ……!」
鬼の爪が私の右腕と右脚に当たり、深い切り傷ができた。
なんとか後方へ飛び、鬼と距離を取る。
…結構深くいった…痛い!
切れた右腕から血がぽたぽたと滴り落ちる。
右の太腿からも流れ出ていた。
痛さで冷や汗が出る。
足が震え、力が入らずその場でがくっと膝が折れた。
「月城!」
前に倒れないようにザクッと地面に日輪刀を刺して身体を支える。
村田さんの心配そうに私を呼ぶ声は聞こえるけれど、返事が出来ない。
呼吸で止血しようとするけれど、間に合わない。
鬼が近づいて来る…早く構えないと…なのに、腕が上がらない
身体が言う事を聞かない…
『選ばせてやろう。爪で串刺しにされるのと、針で心臓を止められるのと……』
どちらが良いかなんて…ふざけるなと思った。
私は鬼をキツくキッと睨みつける。
『そうか…では、両方にしよう』
鬼がスッと両腕を私へ向けた。
私も、これで終わりか…
最後にもう一度、会いたかったな……錆兎に……
死を覚悟して、ぎゅっと目を瞑った……その時ーーー