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魔法使いの肖像画家(※一部のみ公開)

第3章 魔法使いの肖像画家


「⋯⋯そうなの」

 ラークは、ホッと一息吐き、カップを置いた。

「貴女、今、仕事は忙しい?」

「いいえ。依頼もありませんし、あったとしても、二つは同時に受けません。大抵の時間、暇という状態にあります」

 私の答えを聞いて、ラークはクスクスと笑った。

「貴女らしい物言いね。⋯⋯実は、五年前に話さなかった事を、貴女に伝えようと思って」

「⋯⋯進路指導の件でしょうか」

「流石、肖像画家ね。察しが良いわ。⋯⋯そう。貴女の三つ目の適正について」

 ラークは手元を見詰めた。

「もし⋯⋯もし、貴女が工房入りを断ったら、教師として、エンゲルに残る道を示すつもりだった。何処の世界に、教え子を死なせたいと思う教師がいるって言うの? 優秀な子供たちが、分別の無い人間に殺されたとニュースで聞かされるのは、もうまっぴらだった。誰一人として、治安維持管理課になんて、送りたくなかったのよ! 特に生きる喜びも知らぬ、純粋な子供を⋯⋯」

「ラーク師⋯⋯」

 胸が苦しかった。何か言葉を発したかった。しかし、何と言うべきか分からなかった。それでも、何も言わなければ後悔すると思った。

「ラーク師。長生きしてください」

 ソフィア・テイラーの言葉が口から飛び出した。

「生きてください。生きて⋯⋯来月も、そのまた次の月も、紅茶を届けてください。私⋯⋯私は⋯⋯」

 私には何が出来るだろう? 毎日手紙を書けば良いのだろうか? 愛していると言えば良いのだろうか? 違う。義務では無い。

「私は⋯⋯師を、尊敬しています。会えなくなる事が⋯⋯⋯⋯寂しいのです」
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