第3章 魔法使いの肖像画家
私は、私を持っていなかったから、人の真意を察する事に長けていた。誰にでもなれた。共感は出来なくとも⋯⋯いや、出来ないからこそ、遺族の感情に揺さぶられる事なく、故人の正しい姿を描けるのだ。
紅茶は、少し渋かった。そういえば、最後に茶葉を入手したのは、何時だっただろうか?
そんな事を考えていると、何も無かった壁に突如扉が現れた。来客だ。合鍵を持っている人間が来たのだ。
私が、唯一心から尊敬し、幾分かの好意を抱いている恩師が現れた。
「⋯⋯ラーク師」
「こんにちは、ミス・アリンガム」
初老のエンゲル校の女校長は、いつも通り紫のローブをピシリと纏い、佇んでいた。
「茶葉を持って来ましたよ。調子はどうですか?」
「ありがとうございます。問題ありません」
「先日、三百ソートの寄付が入りました。これで、寮の拡張工事が完了します。来年度は、各寮、二十人程度多く受け入れられるわ。貴女のことを誇りに思います」
ラークは珍しく口元を緩めて微笑んだ。
「仕事は順調? トラブルに巻き込まれていない?」
「はい。親方の指示通り、宗教画はお断りしています。それから、同業者組合の規範も順守しています。私は、あくまで個人の肖像画依頼のみを引き受けておりますので。⋯⋯どうぞ、お掛けください。お茶を淹れました」
私は、先月ラークに貰ったお茶を出した。暫く無言で過ごした後、私は、彼女が何か言い辛い事を抱えている事に気が付いた。
「ラーク師。今日は何か用があって来たのでは?」