• テキストサイズ

魔法使いの肖像画家(※一部のみ公開)

第3章 魔法使いの肖像画家


 私は、私を持っていなかったから、人の真意を察する事に長けていた。誰にでもなれた。共感は出来なくとも⋯⋯いや、出来ないからこそ、遺族の感情に揺さぶられる事なく、故人の正しい姿を描けるのだ。

 紅茶は、少し渋かった。そういえば、最後に茶葉を入手したのは、何時だっただろうか?

 そんな事を考えていると、何も無かった壁に突如扉が現れた。来客だ。合鍵を持っている人間が来たのだ。

 私が、唯一心から尊敬し、幾分かの好意を抱いている恩師が現れた。

「⋯⋯ラーク師」

「こんにちは、ミス・アリンガム」

 初老のエンゲル校の女校長は、いつも通り紫のローブをピシリと纏い、佇んでいた。

「茶葉を持って来ましたよ。調子はどうですか?」

「ありがとうございます。問題ありません」

「先日、三百ソートの寄付が入りました。これで、寮の拡張工事が完了します。来年度は、各寮、二十人程度多く受け入れられるわ。貴女のことを誇りに思います」

 ラークは珍しく口元を緩めて微笑んだ。

「仕事は順調? トラブルに巻き込まれていない?」

「はい。親方の指示通り、宗教画はお断りしています。それから、同業者組合の規範も順守しています。私は、あくまで個人の肖像画依頼のみを引き受けておりますので。⋯⋯どうぞ、お掛けください。お茶を淹れました」

 私は、先月ラークに貰ったお茶を出した。暫く無言で過ごした後、私は、彼女が何か言い辛い事を抱えている事に気が付いた。

「ラーク師。今日は何か用があって来たのでは?」
/ 15ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp