第3章 魔法使いの肖像画家
「⋯⋯ジェシカ」
ラークは、涙ぐみ慌てて袖で顔を覆った。啜り泣きを隠す様に、笑っているフリをした。
「私が後五十年以内に死ぬ事は、星占術師に聞かなくても分かりきった事だわ。⋯⋯それまでに、貴女をどうにかしてあげたくて⋯⋯。毎週土曜日、非常勤教師として、ウチで教えない? 芸術科の教師が、クレイン先生しかいないのよ。彼がどれだけ生徒に煙たがられているか知っているでしょう? 貴女の助けが必要なのよ」
「⋯⋯無理です。私が人に教えるなんて⋯⋯。私は、ラーク師の様に、親身になって接することが出来ません」
「別に、生徒と仲良しにならなくても良いの。貴女は淡々と技術や、同業者組合の規範について教えてくれれば良い。クレイン先生よりも、嫌われるなんて事は無いはずだから。⋯⋯それに貴女の助けを必要としている子がいるのよ」
ラークは、時折私に向ける眼差しを、此処にはいない誰かへと向けていた。
「⋯⋯マリャーシカ団の子が、一人受講しているの」
「魔法使いですか?」
「いいえ。人間の子よ。でも、魔法使いの肖像画家になりたいと言っている。⋯⋯他の科目はほぼ満点の主席だから、特別に受講を許したけれど、このままでは、あの子は何者にもなれない。貴女なら、人間の肖像画家の知識と技術を持っている。⋯⋯お願い」
ラークは僅かに頭を下げた。
「私の生徒を助けてちょうだい」