第3章 魔法使いの肖像画家
この、胸に燻る想いは、何なのだろうか。喜び? 人の役に立てた⋯⋯自分には価値があるという、高揚感?
分からない。
ただ、アメリア・テイラーにとって、幼くして病死した娘の肖像画が、役に立った事は確かだ。
そして、自分が正しい仕事をしたという確信を持てた。
私は、ソフィア・テイラーについて、肖像画を描くのに費やす倍の時間を掛けて調べ上げた。
彼女が短期間通っていた学校へ赴き、教員や友人から、彼女の人格や些細なエピソードを聞き出した。
そして、依頼者であるアメリア・テイラー
の話を聞き、彼女がどんな色眼鏡で娘を見ていたかを把握し、可能な限り、等身大のソフィア・テイラーの人物像を掴んだ。
最も役にたったのは、中央統制議会の、遺言管理課に遺されていた、ソフィアの日記だ。彼女は、心臓の病に冒されながらも、死の淵で、愛する人がこの先も生きて行く事を望んでいたのだ。
私は幾つかの写真を元に、ソフィアの肖像画に着手した。キャンパスに絵を描く事自体は、非魔法使いの肖像画の制作作業と変わりない。
一番重要なのは、瞳に光と魔法を注ぐ作業だ。それが出来ないが為に、粗悪な絵を仕上げたり、一人前と認められない、魔法使いの肖像画家は山程いる。
私は⋯⋯。