第3章 魔法使いの肖像画家
────
心より尊敬する、肖像画家・ジェシカ・アリンガムへ。
素晴らしい絵をありがとう。貴女の忠告を忘れたわけではないけれど、娘が戻って来たみたい。
毎朝、あの子の絵が、あの子の声で、おはようと言ってくれるの。そんな当たり前の日常が、どれだけ愛おしい物か、改めて実感したわ。
────
私には分からない。その、当たり前の日常が。
同じ家に住む人間に、同じ挨拶をされる事は、愛おしく思える事なのだろうか?
手紙に目を戻した。
────
けれど、額の中にいるあの子は、私たちが望む言葉を掛けてはくれない。だからこそ、貴女が、いかに優れた肖像画家か、理解出来たわ。
眠れない夜、あの子が言ったの。「生きて」と。「明日も、明後日も、愛していると言うから、生きて、生きて、そして、もう少し生きたいと思いながら、私を抱きしめに来てね」って。
あの子が言いそうな事だわ。貴女は、本当に良く調べてくださったのね。
ありがとう。
貴女の言った通り、貴女が請求した以上の、あの絵に見合う報酬は、エンゲル校へ寄付しました。貴女の名義で。
私は、魔法使いの善意を信じます。人目を憚らず、お会い出来る未来を願って。
アメリア・テイラー
────