第3章 魔法使いの肖像画家
絵を描く事が好きだった。
魔法使いの世界でも、芸術家は特殊な職として見られ、自分の子に積極的に勧める親は少ない。私の家族も猛反対した。しかし、それでも私は筆を手放さなかった。
私には自分の感情に蓋をし、他者と自分の人格を完全に分離して認識する能力があった。それは、魔法使いの肖像画家にとって、最も必要な素養だ。
そして、他に類を見ないパーソナリティ。共感性の希薄さ、生命に対する固執の無さ、幾つもの感情と言葉を、真の意味で知らぬ染まりやすい性格。
十八の時、エンゲル校で適性を提示された職業は、魔法使いの肖像画家か、中央統制議会⋯⋯即ち国家公務員の、治安維持管理課だ。
教師には「他人の為に命を懸けて戦える、優秀な魔法使い」と箔押しされたが、私は自分の為に生きられないのと同じ様に、他人の為に命を投げ打つ事に価値を見出せない、虚しい人間だった。
卒業後小さな工房に入り、その後僅か半年で一人立ちした。
私の作品は、幸運にも莫大な資産を抱える商人の目に留まり、彼の肖像画を描く事で、一生分の財産を手にした。その金の、ほんの一部を使って、人里離れた平野に大きな館を建てた。入り口には複雑な呪文を掛け、魔法を使えない人間はおろか、魔法使いですら立ち入る事を許さなかった。私は、一人きりの世界に生きていた。
午後三時。紅茶を淹れていると、保護呪文を突破して鳩が飛び込んで来た。それは手紙に姿を変え、私の手元に広がった。
先日、肖像画を届けたばかりの女性からだった。