第3章 魔法使いの肖像画家
「いえ。特別構成員ではあるけれど、前首相に肩入れしていたから、今は出納課で事務員をやっているわ。私は、その方が平和で良いと思うのだけれど」
「私も、そう思います」
珍しく、自分の意見が口から飛び出した。
「ラーク師が悲しまずに済むのなら、その方が良いと思います」
「残念だけれど、私は平和が長く続くとは思っていないのよ」
ラークは、悔しそうに呟いた。
「山火事と同じ。一度落ち着いたと思っても、表面に積もった、湿った枯葉の下で炎が徐々に大きくなっているのよ。貴女も、この屋敷から出たら、それを感じ取れるはず。⋯⋯彼はきっと、正しい陣営を選んで戦うはずよ。そうあれる様に育てたのは、他でもない私ね」
「⋯⋯水と火の融和ですね。私もきっと、同じ陣営を選びます」
私は、アメリア・テイラーの手紙をラークに差し出した。
「彼女は、人間です。私に肖像画を依頼し、魔法使いの善意を信じると言ってくださった。⋯⋯私は、自分の仕事の結果を裏切りたくありません」
「⋯⋯そうね」
ラークは、震える手で手紙を置いた。
「⋯⋯そう。貴女も⋯⋯貴女も、決闘の練習をした方が良いかもしれない。この屋敷に掛けられている呪文は、私にも破れない程強力だけれど、咄嗟に身を守る方法を身に付けた方が良いかもしれない。⋯⋯実は、ブラッドフォード・ゴッドリッチを神格化する動きが出ているの。新聞には載っていないけれど、何人かの職人が、肖像画の依頼を断って”消えて”しまった」