第3章 魔法使いの肖像画家
「そう! それは良かった! 例え貴女がどんな考えであったとしてもね」
ラークはパチンと手を合わせて、はっきり笑みを浮かべた。
「ローブは当日渡すわ。同業者組合の認定勲章と、国家治安維持魔法部隊特別構成員のバッヂは必ず身に付けてちょうだい。それが貴女を、多くの生徒の好奇から守ってくれるから。そして、食事は他の教師と一緒に摂って、私の部屋で一泊して帰りなさい。それと──」
「先生、落ち着いてください」
私は冷や汗をかきながら嗜めた。ラークは一度物事が決まると、ブレーキが壊れた汽車の様に走り出してしまう。
「正式な辞令が必要でしょう? 書類を送ってください。しっかり確認しますので。⋯⋯先生が、私の事を気に掛けてくださっているのは、分かります。でも、私は静かに暮らしたいんです。大きな喜びを生涯理解出来なくても構わないんです。大きな痛みも味合わなければ。私は⋯⋯極力他の教師の方とは関わらない様にします。トラブルの原因になると思うので」
「トラブル⋯⋯ね。言い忘れていたわ」
ラークは落ち着きを取り戻し、そわそわと体を揺らした。
「魔法制御強化訓練の非常勤講師を⋯⋯その⋯⋯慣例通り、中央統制議会から招いているのだけれど⋯⋯」
「パトリック・アランですか?」
「そう。⋯⋯貴女にとっては、付き合い辛い相手なんじゃ⋯⋯」
「問題ありません。私は彼の事が、好きでも嫌いでも無いので。話した事もありませんし、彼も、私が誰だか分からないでしょう。敢えて名乗るつもりもありません」
実際、三学年上のパトリックについては、遠目に見ていただけで、それほど興味を持っていなかった。彼が首席である事と、度々喧嘩をして傷だらけになっている事は知っていたが。
彼自身、極めて大人しい性格で、取り巻きの二人程目立つ事は無かった。
「彼は、今も治安維持管理課にいるんですか?」