• テキストサイズ

魔法使いの肖像画家(※一部のみ公開)

第3章 魔法使いの肖像画家


「顔を上げてください」

 私は慌てて言い、慎重に言葉を探した。ラークは、とても愛情深い教員だが、同時に現実主義でもある。不可能な事は、不可能だと、はっきり伝える人間だ。

「その子に、伝えなかったのですか? 人間は、どれほど努力しても魔法を使えないと。⋯⋯黙っているのですね? それは、前例があるから?」

「違う。それだけではないの。その子には協力者がいるのよ。双子の姉よ。肖像画を描くのは、その子自身。でも、仕上げの作業は姉が担当すると言っているの」

「お姉様は、魔族なのですね? ですが⋯⋯肖像画は描く過程も重要だと、ご存知のはずです。絵に、どんな想いが込められているのか、細かな部分まで、確実に共有出来ていなければ、共同作業は無理です。魔族同士でも上手くいきません。ましてや、人間と魔族の共同作業となれば⋯⋯」

「でも、不可能では無いはず。理屈では」

 ラークは容易に引き退らなかった。すっかり忘れていたが、彼女は頑固な一面も持ち合わせている。そして、情熱的なのだ。

「出来るはずなのよ。人間が突然魔法を使える様になるより、ずっと現実的な考えよ。姉妹だもの。上手く行く方法が──」

「ラーク師」

 何と言うべきか。ラークの考えは根底から、私の物とは異なる。上手く行っていないのは、二人が姉妹だからだろう。現状、家庭環境まで知る事は出来ないが、同じ血を受け継ぎながら、同じ能力を手に出来なかった者の痛みは、容易に想像出来る。

 それだけは、唯一共感出来るのだ。

「引き受けます」

 間違いを、正さなくてはならない。

「土曜日に、伺います」
/ 15ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp