第9章 雨のひと時
「あ!兼さん! 執務室に来ていたんだね。」
急須と茶菓子をお盆に乗せて、堀川が執務室へ戻ってきた
兼定に視線を向けると笑顔で話しかけている
私は先程の事もあり
否が応でも堀川を意識してしまう
堀川を直視出来なくて、辿々しく視線を彷徨わせる
「お茶、淹れてきました。午前中は執務で予定も詰まっていたので、少し休憩しましょう。 ね、主?」
不意にこちらに話題を振られて顔を上げると、ばっちりと堀川と目が合う
顔を小さく傾けて私の返事を待っている
「う、うん…!」
きゅるんとした瞳で見つめられたらだめだ
あざといけど可愛い… うぅ…
何だか圧倒されて照れ臭さも少し薄れた…
気を取り直して、堀川から湯呑みを受け取る
淹れたてのお茶の爽やかな香りが鼻腔をくすぐる
外は未だに雨が降り続いているが、この香りを胸いっぱいに吸い込むと晴れやかな気持ちになれる
「そう言えば、兼さんはどうして執務室へ?」
そうだ、兼定は堀川がお茶の準備で部屋を出てから来たんだった
「最初は国広を探しに来たんだ。ちぃっと頼みたい事があってな。」
兼定は茶菓子を摘みながら答える
その言葉に私は途中まで直しかけた兼定の羽織を手に取る
「兼定の羽織が解けててね、手直しの依頼だったんだよ。」
さっきあんな事があって忘れてたけど、まだ縫いかけだった事を思い出す