第8章 騒がしい夜更け
寝ていたこともあって随分時間が経っていたようだ、主は寝巻き姿で、恐らく眠る前に様子を見に来てくれたのだろう
夜も更けている、こんな時間にこの部屋を訪れる者はいない…
主の少し汗ばんだ頸が目に入り、ゴクリと生唾を飲み込む
────主に触れたい…
その想いが心の中で木霊する
────いや、だめだ、浅はかな己の欲に任せて動く訳には…
そんな事は許されない
主命でもない、己の意思で主に触れる事など…
「…長谷部?」
ウンウン唸っている長谷部を見兼ねて心春が声を掛ける
その声にハッとして我にかえる
「夜遅くにお邪魔しちゃったね、そろそろ自室に戻るよ。今日はもうゆっくり休んで───」
話しながら身なりを軽く整えると、主は部屋を去る為立ち上がろうとする
その瞬間、俺は咄嗟に主の手を掴んでいた
───────
「───今宵は…一緒に、…いてくれませんか?」
辿々しく言葉を紡ぐ
恐る恐る顔を上げると、主は驚いたように目を見開いている
ああ、またやってしまった
後先を考えない自分の行動を悔やむ
主命でもない、ただの己の意志を押し通して…嫌われるだろうか、軽蔑されるだろうか、焦りから一瞬で様々な考えが脳内を巡る