第5章 物音の正体
心春が本丸へやってきた頃、屋敷では───
─────ガタンッ!!!
「いててて…、勢い余って転けちまったなぁ。」
新しい主をひと目見たくて居ても立っても居られなかったのは、鶴丸国永
真白な羽織を翻し、我先にと
本丸への到着した主の元へ向かう
後先考えずに全力で廊下を走っていた鶴丸は、勢い余って角を曲がりきれずに転倒していた
「こんのすけは明日到着するって言っていたけど、まさか今日来るなんて驚いた!」
起き上がりながらそう呟くと、隣の部屋の障子が勢いよく開き、主らしき人物が反対方向へと全力で走って行くのが見えた
「えぇっ!?…ちょっと、待つんだ主!」
勿論声は届かず、呆気に取られている間に主を見失う
なんて逃げ足が早いのだろう…
鶴丸は主が走って行った方角へ足を進める
「鶴さーん!」
鶴丸が廊下を進んで行くと、後ろから追い付いた光忠が声を掛ける
「おお!光坊!…今しがた主を見かけたのだが、屋敷の奥に向かって走り去ってしまってな…。」
鶴丸は困ったように眉を落とすと、残念そうに小さく溜息を吐く
「鶴さんが急いで会いに行ったから、てっきりもう会えてるかと思ったけど、…そんな事が。」
2振は主が走り去った方を見やる
「───さっきの物音に驚いて逃げてしまったのではないかな。」
光忠の後から、全く焦る様子のない髭切が合流する
「それは、悪い事をしてしまった…。」
カリカリと頭を搔くと、鶴丸はバツが悪そうに呟いた
肩を落とす鶴丸の背中を、光忠がポンと叩く
「屋敷のどこかにいると思うし、ここは手分けして探すしか無さそうだね。大丈夫、きっと見つかるよ!」
「光坊…!」
顔を上げた鶴丸の表情が、ぱあっと明るくなる
「よし!じゃあ早速、探すか!」
自分が驚かせた所為で主が逃げ、挙句に行方不明など…長谷部が知ったら雷が落ちそうだ…
どうにか長谷部の耳に入る前に解決したい
鶴丸は意気込んで主が逃げていった方角へ歩き出す
光忠もそれを追うように歩みを進める