【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
「しのぶさんったら!もぉぉお!!」
自室に戻った月奈は枕に拳をぶつけながら思い切り叫んでいた。何故ああも意地悪く言うのだろうか、その上で自分の反応を心から面白がっていることが分かるから余計にタチが悪い。
一通り叫んだ所ではぁ、と息を吐いた月奈は先程のしのぶの言葉を思い出す。
(婚約者でも身篭る方もいらっしゃる...それはつまり)
「婚約段階でもそういうことは出来るってこと?」
(って!そういう話じゃないわ!今は祝言の話だけ考えなきゃ)
余計な事を考える時間は無い、そう思い直した矢先嫌な記憶が頭を掠める。月日が経ち思い出す事が少なくなった今でも、ぶり返すように記憶が浮上する、一度目の結婚。
それは思いの外、月奈の根底に残る記憶になってしまったのかもしれない。着物の上からなぞるのは過去の傷。背中、胸、腕...
(いくら分かっていても、他者から見れば醜いモノ...)
し「月奈?少し良いですか?」
廊下から聞こえた声にハッと意識を戻した月奈は慌てて障子を開く。そこにはしのぶ一人しか居らず、どうやら杏寿郎と蜜璃はまだ居間に居るようだった。
「すみません、直ぐに戻らず...。でもしのぶさんのせいですからね!!」
部屋に入るなり怒られてしまいしのぶは苦笑する。これは少し意地悪の度が過ぎたようだ。
し「少々度が過ぎていたことは謝ります。ただ、やや子が出来ていても悪いことではないと思ったのです」
「悪いことではない?」
し「えぇ。それは即ち月奈が煉獄さんを受け入れられたという証拠に他なりませんから。その逆も然り、です。月奈はまだ...不安なのではないかと心配しているのですよ」
不安。その言葉に心当たりはある。
しかし、それはきっと問題無い。
「しのぶさん同様、杏寿郎様は私の傷をご存知ですし、実際目にしているのできっと大丈夫です」
し「それはそうですが...」
鬼殺隊から逃げる為の縁談だったことやその後の破談の詳細を知るしのぶにとって、月奈が傷付くことのない幸せな結婚をして欲しいと心から思っていた。
ー煉獄さんなら、月奈を幸せにしてくれる。その確信はあるけれど、月奈が傷付けば煉獄さんも傷付き、その逆もまた然りな所が予想に難くないところ。