【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
「いえ、それが、殆ど話せていません」
どうにも月奈の様子がおかしい、とは思いながらも杏寿郎は「そうか」と短く相槌を打ちしのぶと蜜璃に向き直る。こちらもやはり視線を合わせようとしない。増々「?」という表情になっていく杏寿郎だったが、ここではきっとそこを詰めても仕方が無い話だろうと諦めた。
煉「事前に話していた俺と月奈の祝言についてなんだが、少し急ぎたい事情が出来てな。協力して貰う予定だった甘露寺と胡蝶にも急ぎ知らせた次第だ」
それで...と続けようとした矢先、しのぶが手を挙げた。その行動に蜜璃はまさかという表情でしのぶを見、はたまた月奈は更に真っ赤になる。
し「その事情、とやらをお伺いしてもよろしいですか?」
煉「ん?あぁ、事前に設定した日取りとなると幾分先の話だったんだが、お館様のご意向もあって急ぐことにした」
蜜「お館様のご意向?なんだ、そういうことだったのね」
胸を撫で下ろした蜜璃とは対照的に、しのぶは少し残念といった表情だ。
(やや子だなんて、やや子だなんて!私はまだ婚約者という立場なんですから!)
意図が伝わりそうなほどの視線を受けたしのぶは、少し微笑んでから口許を隠してパクパクと動かした。そう、月奈には見えて杏寿郎には見えない程度に隠して。
婚約中でも身篭る方はいらっしゃいますよ。
「ーっ!!!」
ガンッ!と音を立てて座卓が揺れ、驚いた杏寿郎が月奈を見ると座卓に突っ伏すようにしていた顔をガバリと上げて立ち上がった。髪で表情が隠れているが今度は耳まで真っ赤になっている。
「杏寿郎様、すみません。少し席を外してもよろしいですか」
煉「あ、あぁ。それは構わんが気分でも悪いのか?それならば千寿郎に...」
「大丈夫です。それよりお話を進めて頂ければ有難いです」
失礼します、と居間から出ていった所で杏寿郎が溜息を吐いてしのぶの名を呼んだ。
煉「あれは胡蝶のせいか?何を言ったらあぁなる」
し「えぇ?私のせいと決めつけないでください。祝言を急ぐ理由はなんだろうなーとお話していただけですよ私も甘露寺さんも」
ニコニコと微笑むしのぶの隣で「えっ」と声を上げた蜜璃をみれば、恐らく蜜璃は巻き込まれたのだろうと安易に想像できた。
ーひとまず月奈に話しを聞くのは後にしておこう。