【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
「その事は私の独断専行です。杏寿郎様には何ら落ち度はありません」
煉獄家に戻ってから何度この会話をしたかは忘れたが、どれ程月奈が気にするなと言っても杏寿郎の心中では澱のように残っているのだろう。
「私が戻る迄の間、どのように過ごされたのかは分かりませんが...私が傍に居ても偶に不安そうな顔をされますね」
何か不安が?と問いかけると、杏寿郎は視線を伏せた。
らしくない仕草に、それ程言い難い事柄なのかと月奈は追及を少し躊躇った。
(私には言えないこと、なのかしら)
そう考えると心臓がズキリと痛んだ気がした。
杏寿郎は普段から自分の我を通すことはあまり無い。勿論正義としての我は強い方だが、長兄として跡継ぎとして柱として、その全てに恥じない生き方を貫くが故に我儘のようなことを言ったのを月奈は聞いたことが無かった。
「私には言い難いのならば他の誰かにお話してくださいね、心の我慢は良くないと私に仰ったのは他ならぬ杏寿郎様ですよ」
(聞く相手の問題では無い、気持ちを吐露する場や人がいることで救われることもあるもの。私もそうだった)
もう少し待って、杏寿郎が何も言わないのならそれで仕方ないと思った矢先にポツリと言葉が聞こえた。
煉「情けない話を、しても良いだろうか」
不安そうな表情で問いかける杏寿郎に月奈はゆっくりと頷いた、話してくれる嬉しさが顔に出ないよう真面目な表情で。
煉「比較をしていたんだ」
「比較?」
向かい合った杏寿郎の思わぬ言葉に月奈は間の抜けた声で問い返した。一体何を比較していたのか。
煉「月奈の中で俺と朝霧少年は何が違うのか、とここ最近考えていた」
はぁ?と更に間の抜けた声が月奈の口から発せられる。
何故今更になって比較するのかと疑問が浮かんだが、今日の二人のやり取りを思い出した月奈は「なるほど」と苦笑した。
「雅雄様との違い、ですか?そうですねぇ...何だと思いますか?」
煉「それが分からないから困っているんだが!」
顔を上げた杏寿郎は真剣な瞳で見つめてくる月奈に少し戸惑いを見せる。笑いに付される覚悟もしていたが、まさか真剣に聞いてくれるとは予想していなかった。