【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
じっと見つめる視線に降参したのか、杏寿郎は口を開いた。しかし多くを語ろうとはしない。
(十中八九私に関連することなのね。それに加えて雅雄様の名前に先程反応していた...)
「私に何か悪い点があったならば仰って下さい。雅雄様について何かしのぶさんからお話があったのでしょう?それについては先程も言った通り、私を助けてくださったのですよ」
善意を疑わない月奈。その姿は落ち着き始めた杏寿郎の心中を再びジリジリと妬き始める。
ーこの娘は自身がどのような目で見られているのか分かっていない。まして、朝霧少年の行動は助けるが故と疑いもしない!事実の一部はそうだろう、しかし朝霧少年の心中は...。
煉「朝霧少年が本当に善意だけで君の腕を掴み離さなかったと、そう信じているのか?俺は胡蝶から君が道場から離れた後のことを聞いている」
「信じて...って、だって事実そうではありませんか!それに、離さなかったのは...何か理由が」
煉「その理由については直接本人にでも聞くと良い!ただし正直に話すかどうかは分からんがな」
この話はこれで終いだ!と話を切られた月奈は、それ以上の追求も出来ずトボトボと自室へと戻る。その姿を見送ることなく杏寿郎は布団へと倒れ込み目を閉じた。
ー釘を刺したとて、あの少年が大人しくするとは思えない。月奈自身が気付いて自衛するならば話は済むが、あれでは...。
杏寿郎はふと月奈と恋仲になる前を思い出す。周囲からはバレバレだと言われるほど月奈への好意を露わにしていた杏寿郎に対して、当の本人は気付いておらず自身の気持ちすら蔑ろにしていた。
それでも今、婚約を結び祝言の話まで漕ぎ着けたのは月奈が杏寿郎の気持ちを知り応えてくれたからだ。心が通ってからも色々あったが、心から慕い慕われていると思っていた。
ーだが...月奈と朝霧少年は最終選別時から同士として仲良くしていた。歳も自分とは違い月奈と近い。きっと体の傷についてもあの少年ならば易易と受け入れるだろう。
それならば、月奈にとって杏寿郎と雅雄の違いとは何なのだろうか。そう考えれば考えるほど不安と焦燥に駆られギュッと強く瞼を閉じる。
煉「情けない上に不甲斐ない」
そう呟いた杏寿郎は、ゆっくりと息を吐いた。