【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
「杏寿郎様、入ってもよろしいでしょうか」
そう声をかけると中から筆を置く音が聞こえた。間も無くして障子が開き杏寿郎が姿を表し、中へと入るよう促した。
煉「湯冷めは大丈夫か?...まだ赤みがあるな、痛みは?」
「いえ、痛みは無いです」
(この状況は湯冷めになんかならないよ...)
背中に感じる杏寿郎の体温に冷めるどころか、熱が増しているんじゃないかと思ってしまう。薬を塗ってくれると言われたので前に座ったはずが、どうしてこの体勢になっているのか月奈は頭で必死に考えていた。
杏寿郎の胡座の上に座らされ、肩口から覗き込むようにして腕を擦られる。優しく擦るその手、指先に落ち着いていられる人間がいるのだろうかと考えて思わず頭を振る。
(これは治療!これは治療!他意は無いわ!)
「明日にはきっと赤みも消えますよ」
傷が残らないか心配なのだろう、月奈はそう思って言葉を発したが、背後の杏寿郎は無言だ。
(あれ?)
「杏寿郎...ひぇっ!!?」
振り向こうとした瞬間、突然なにかが首筋に触れ思わず月奈は声を上げてしまった。吃驚したからだろう、身体がビクリと跳ねるが杏寿郎の腕によって抑えられ月奈は更に混乱する。
「なっ...何!?杏寿郎...さ...ま?」
慌てて首を巡らせた月奈は間近にある杏寿郎の表情に言葉が詰まる。普段から優しい表情ばかりの杏寿郎、そう、いつもの表情なのだ。
(だけど...)
煉「...!?」
「なにか、怒って...いますか?」
考え事でもしていたのだろうか、月奈が杏寿郎の頬にそっと触れるとハッとしたように視線を向ける。
煉「あぁ、いや...すまないな。薬を塗り終わったから部屋で休むと良い」
疲れたのかもしれないな、と笑って誤魔化そうとする杏寿郎に月奈はそっと溜息を吐いた。きっと、しのぶから薬を受取る際に何か聞いたのだろうと予想はついた、けれど誓って問題が無かったと思っている月奈からすれば何が杏寿郎を怒らせたのか直接聞く以外方法がない。
「駄目ですよ杏寿郎様。お疲れとは分かっていますが、私はこれでは眠れません。しのぶさんと何かあったのですか?」
煉「胡蝶からとある話を聞いただけだ、君が気にすることじゃない」