【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
昼食を配り終えた頃、月奈は洗濯をしに庭の井戸へと向かった。抱えた籠にはいつものようにシーツや包帯が無造作に入っている。
「さて、やりますか!」
ぐっと気合を入れて腕まくりをすると、井戸からくみ上げられた冷たい水に手を入れ、汚れた布を石鹸で落としていく。周囲には石鹸の良い香りが広がっていく。月奈はこの瞬間が好きだった。
(汚れが綺麗になって、良い匂いに囲まれるなんて幸せだわ)
無心に汚れを落としていた月奈は背後に寄っていた人物の気配に気付いていなかった。伸ばされた手は月奈に触れる前にピタリと止まる。その瞬間、何かを感じたのか月奈が振り向いたがそこにはただ庭が広がるばかり。
「…気のせいかしら。何かいたような気が…でも誰もいない」
はて?と首を傾げた月奈は桶に浸かっている残りの洗濯物を井戸水ですすぎ始める。あとはこれを干せば今日の仕事は終わりだとアオイから言われている。
「今日は早く帰って、千寿郎さんと夕飯を作れそうだわ。杏寿郎様はもう戻られたかしら」
早く帰ればそれだけ長く杏寿郎と居られるのだ、月奈は自然と緩んでしまう頬を軽く両手でパチパチと叩いて目の前に積み上げられた洗濯物に向き合うのだった。
「只今戻りました!」
日が傾き始めた頃、月奈が帰宅すると千寿郎が台所からひょっこりと顔を出す。どうやら既に夕餉作りを始めたらしい、慌てて部屋で着替えてこようとすると
千「急がなくて大丈夫ですよ月奈さん。もうじき出来上がりそうなので父上と兄上に声を掛けて頂いていいですか?」
「うぅ、今日は久しぶりに夕餉の準備手伝えると思っていたのですが…すみません」
しょんぼりとした月奈に、千寿郎は慌てながらも「声掛けして頂くだけでも助かりますから」と微笑む。
(本当に…嫁の見本みたいな出来た子だわ)
微笑みが何故か眩しく感じ月奈は目を細めた。
自分は近いうちにこの煉獄家の嫁となるが、とてもじゃないが千寿郎のようにこなせる気がしない。
廊下を歩きながら、月奈は本気で考える。
千寿郎に花嫁修業を付けて貰うべきかと。
「いや、それは千寿郎さんに失礼…っぶ!」
俯いて歩いていた月奈は、進んだ先で何かとぶつかりそのまま捕まった。