【鬼滅の刃】after story【闇を照らして】
第1章 闇を照らして 祝言
ーあれ程あけすけに強い視線を向けてくるほど余裕が無かったのか、それとも俺だからだったのか。
後者であれば面白いと思ってしまう辺り、雅雄は肝が座っている。それにしても、杏寿郎の行動は実直過ぎるのではないだろうか。それにも増して何も知らない月奈も月奈だと雅雄は思っていた。
「雅雄様、本当に無理なさらないでくださいね。傷に障りますから。それじゃあ...っきゃぁ!」
雅「月奈さん!?」
道場を出ようと踵を返した月奈が声を上げた瞬間、素早い動作で雅雄は月奈を引き寄せ抱き留める。前のめりに転ばずに済んだ月奈は驚きに脈打つ心臓を抑えながら「す、すみません雅雄様」と小さな声で無事を伝えた。その声にホッと息を吐いた雅雄は「こちらこそすみません」と謝った。
雅「水を零してしまっていたようです、恐らく水滴で滑ったのでしょう。怪我はありませんか?」
チラリと視線を落とした床には3滴程の水滴が落ちている。下を向いた瞬間鼻に届いた白粉の香りに雅雄はハッとした。自身の胸に月奈がすっぽりと収まっていることに気付いたのだ。
ーどうしてこうもこの人は無防備なんだ。
手を伸ばせばいとも簡単に捕まえることが出来てしまう月奈に少しの苛立ちが湧き上がってきた雅雄。月奈を掴んでいた手に知らず知らずのうちに力が入っていく。
「怪我はありません、ありがとうございます。...っま、雅雄様、手を離してくださ...」
ピリッとした空気を雅雄から感じ取った月奈は顔を上げた先、雅雄の表情に何も言えなくなってしまう。
(え?怒って...うぅん、苦しそう...?)
雅雄が何かを言おうと口を開く瞬間、月奈の背後から穏やかではあるが少し怒気を孕んだ声が響き雅雄の表情が固くなった。
し「あらあら、いけませんね雅雄君。月奈の腕が鬱血してしまいますよ」
ね?と微笑むしのぶに、固い表情のまま見返す雅雄。
ただならぬ雰囲気、それは一瞬だった。月奈の腕を離した雅雄は「すみません、痛かったですか?」と静かに謝るので、月奈は慌てて「大丈夫です」と首を振った。
し「月奈、アオイが探していましたよ。恐らく昼食のことかと」
「わぁ!もうそんな時間ですか!?」