第2章 黒に落ちる/小さくなった理由
「チッ…ウォッカ、アレ持ってこい」
もう一人の黒ずくめの男、ウォッカに指示し、その男が持ってきたのは手のひらサイズの小さなケース
「こいつが何だかわかるか?」
ケースを開けて中のものを見せられる
その赤と白のカプセルを見て、真っ先に反応したのはバーボンとライ
「それは…!」
「そいつは試作段階で止まっている薬か?」
オレも知ってる…
「APTX4869……組織で開発中の薬物…なんの痕跡も残さず死に至る、完全犯罪用の毒薬…」
「さすがは情報屋、詳しいじゃねぇか」
まさかそれを、と身を前に出し驚くバーボン
「そのまさかだ。あの方はそろそろお前にコードネームをと思っていたようだ。本来ならば疑われた時点で始末をしなければならねぇが、タダで消しちまうのは勿体ねぇって訳で、試作止まりのこの薬でモルモットにするよう指示が来た」
APTXの成分は詳しく知らないけど、一応口内に解毒薬は仕込んである
銃で一発KOより生存率は上がるが…完全犯罪用の毒薬ってんだ、いくら試作でもこれはマズいだろ…
「飲んで生きていればそのまま幹部へ、そうじゃなければ実験データが取れる…」
「その薬で運試しってわけか」
察しの良いバーボンとライの言葉にジンの口元がニヤリと上がる
「オイ、バーボン。お前が飲ませろ」
薬のケースをバーボンに差し出すジン
お前らは随分仲が良さそうだからな…って、ジンの奴、オレの最後に良い人選してくれやがって
「いいですよ。仲が良いも何も、ただのビジネスパートナーですけどね」
言葉とは反対に困ったような顔が見えた
零もオレが解毒薬を隠していることを知っているし、この状況ではAPTXを俺に飲ませるしか方法はない
時間を稼いだところで次に責められるのは零だ
捕まった時点で覚悟はできている
だから、最後はせめて零の手で…
地面に横たわるオレの隣に移動したバーボンはオレの上半身を起こし、ジンから薬を受け取る
相変わらずジンの銃はこちらを向いたままだ
飲み込まなかったら撃つ気だろうな…
「悪いバーボン、嫌な役引かせちゃって…」
「…これが僕たち組織のやり方です。今から死ぬかもしれないあなたが……気にすることではないでしょう…」