第5章 赤に揺れる/小さくなったその後
風見の疑問はここにいる全員が思っていることだった
「研究所でAPTX4869の存在を知ったんだ。元々は犯罪に使う薬を作っていたわけではなかったみたいなんだけど、たまたま人体に使用したところ何の痕跡も残らず始末できたことから、完全犯罪用の薬として秘密裏に使用しているらしいよ。それから、どのデータを見ても身体が縮むという結果はなかった」
「死しかありえない開発途中の毒薬…僕はあの毒薬で幼児化するという効果は組織に知られていないと思っている」
「同感だ。ジンも死ぬこと以外の結末を知らない様子だったからな」
「ところで、ジンへの報告はどうなってるの?」
「あぁ、ジンには“ 死んだ ”と伝えてある」
身体が縮んだことを話せば研究所に連れていかれるかもしれないし、そうでなくても組織に利用されて終わるだけだ、と続けられる
「そっか…組織のオレは死んだか。そして見た目がこんなだもん、星影叶音という存在もあってはならないよな…」
確かに生きているとされるよりも良いと思う
姿形は死んだも同然で、もうこの世には存在していない
生きているのに死んでいる
未だ現実味のない話しだが、そろそろ受け入れないと時間が過ぎていくだけだ
いつまでもごまかせないし、小さくなった身体で生きていく術を見つけなければならない
「ひとつ提案だが、認証保護プログラムを受けないか?」
「え…」
諸星さんの提案に3人で視線を向ける
「戸籍や自身の情報を書き換えて別人として暮らせば、もう組織から追われることもない。受けてもらえればきちんと君を守ることができる」
そして反論するのは零
「ふざけないでください!ここは日本ですよ!?日本にだって同じような制度は整っている。何故わざわざアメリカのプログラムを受けなきゃいけないんだ!」
「見た目は子どもだが、能力と頭脳を活かしてFBIの協力者という立場で置いておけるかもしれん」
「それは叶音をアメリカに連れていくと言っているんですか?」
「組織の中心が日本にいる以上、少しでも組織から遠ざかった方が良いと思わないか」
突如始まる2人の言い合いに隣に座る風見はタジタジで、止めることも話に入ることも出来ずにいた
「叶音さん止めなくて良いんですか!?」
「風見、いつものことだから大丈夫。しばらく聞いてて?」
「は、はぁ…」