第5章 赤に揺れる/小さくなったその後
生きているということにこんなにも嬉しいと安堵を感じたのは初めてではないかという程に、この瞬間が二人だけの永遠の時間になる
口内で深く絡み合う零の熱に息をするのも忘れるくらいとろかされてしまい、回らない酸素にもう零以外のことなんて考えられなくて
「ふぁ…っ」
そっと離れた零との隙間から酸素が取り込まれ身体中を満たしていく
両手で頬を包み込む零の手が流れる涙を掬ってくれるもなかなか止まる気配がなく、目の前の零が何度も滲む
「叶音、危ない橋を渡せてしまって…苦しい思いもさせてしまって、すまない…」
「…零が無事なら、それでいい」
自分の手で涙を拭って、まっすぐに零の瞳を見つめる
零も自身の涙を拭いながら首を横に振った
「…僕だけが無事でもダメなんだ
叶音がいない世界なんて考えられない
君を失ってしまう様なことはどんな事があっても二度としないから
もう、僕から離れないでくれ…」
ポタポタと降る涙に、零がどんな思いでオレに毒薬を飲ませて、どんな思いで助けようとしたのか、わかった気がした
「零、一人にしないって、約束しただろ?
今回だってちゃんと約束守れたよ?
だからこれからだってずっと、オレは零から離れないよ
守ってくれて、ありがとう…」
零の頬に右手を伸ばすと、零も手を重ねてくれて微笑み返してくれた
いつもよりも弱気な零なのに、すごく大きく感じるのは何故だろう
……大きく?
「零、オレ、毒薬のせいかな、目が覚めてから所々身体に違和感あって…」
「………」
…アレ?
零の顔に真剣味が戻った
「ジンがあの場から去ったことは覚えてるか?」
「うん、むしろそこまでしか覚えてない」
「じゃあそこから話すよ」
でもその前に…と、胸下まで掛かっていた寝具を退かし、背中と足の下に腕を差し込んでオレを抱き上げた
「ちょっ!?………っ!?」
軽々とオレを抱き上げたことに驚いたが、それ以上に窓に映った姿に言葉が止まった
暗闇の窓に薄ら映るのは、子どもを横抱きにしている零
「ちょっと待って!?どういうこと!?」
自分の手や足や身体や顔、全てを触りながら現状を確認していくが、窓に映る子どもも当然ながら自分と同じ行動を取っている
オレは…まだ夢でも見ているのだろうか
「身体が熱いと言った後に、苦しみながら身体が縮んでいったんだ」