第5章 赤に揺れる/小さくなったその後
「隈が酷いですね」
「……!?」
伸びた手はオレの左頬を軽く包み、沖矢さんの方を向かせられると親指で目の下をなぞられる
突然のことに驚きを隠せず、自分の中で時が止まってしまった
「大丈夫ですか?」
「へ?あ、は、はいっ!」
大丈夫と言うのは隈のことだろうか、それともこの状況についてだろうか、どちらにしても大丈夫ではないのが本当だが、勢いで返事をしてしまった
沖矢さんは反対の手でオレの持っていたカップを掴み、テーブルにそれを置いた手で右側の隈もなぞり始める
「あ、あの、沖矢さんっ!?」
「血行を良くすると少し改善されるんですよ」
そうなんですね!…ってそうじゃなくて!!
恥ずかしいんですとても…!
下を向きたくても沖矢さんの両手がそうさせてくれないし、離れようと掴んだ沖矢さんの腕はピクりとも動かないし
親指以外の指が耳元や首の方に触れてゾクリと身体を鳴らす
「体調優れなかったりします?」
顔赤いですよ?と言われ言い返す言葉が見つからず口をパクパクしてしまう
「あのっ…大丈夫です!ただの寝不足なんで!」
ようやく出てきた言葉に沖矢さんは手を離してくれたが、
「ではリラックスできるように良い物持ってきますので、少々おまちください」
と、席を立って再びキッチンへ消えてしまった
今のうちに逃げてしまおうかとも思ったが、驚きすぎて思った以上に身体が動かない
子ども扱いされているだけだと自分に言い聞かせても心音は落ち着かない
そしてすぐに戻って来た沖矢さんは布巾サイズのタオルをたたみながらソファの後ろ側に回り、オレを見下ろした
「そのまま背もたれに寄りかかって少し上を向いてください」
「沖矢さん、本当に大丈夫ですから、ね?」
「そう言わずに、少し私に付き合うつもりで…」
なんで付き合わなきゃいけないんだ!と心で叫ぶと同時に背後から肩を引かれソファに背中を付く
そして顎を持ち上げられあえなく上を向く形になってしまう
オレを見下ろしながら微笑む沖矢さんの笑顔が見えたかと思うとすぐに視界を奪われた
「えっ!?」
「蒸しタオルですよ」
見えないのは困ると思ってすぐに外そうと両手を伸ばしたが、パシっと沖矢さんの片手でまとめられてしまう
もう片手の手でタオルの上から両目を抑えられているんだろうか、う、動けない……
「少しじっとしていて下さい」