第12章 米花商店街の魔女
「できれば…思い出さないようにって…思ってたんだけど……」
「っおい!大丈夫か!?」
あの観覧車の内部がフラッシュバックして気持ち悪さからしゃがみ込むと、コナンの声が頭の上を通り抜けた
その声に応えることもできず、とにかく息を吸って吐くのが精一杯だ…
あの事件後は仕事に出る事すらままならず暫く休みをもらった
自分がどんな状況だったかなんて覚えていなかったけど、心配をして家まで来てくれた零やヒロ、班長が言うにはとにかく酷い有り様だったらしい…
飲み食いもできず絶食状態、思い出せば吐くものも無いのに込み上げてくる嗚咽そして嘔吐、夢に見るからと不眠も続いていたようで、病院送りも考えたなんてヒロが言っていた
3人のお陰でなんとか仕事に復帰し、それからは日常の中で思い出す事も少なくなり、時々夢に見ては魘される程度だった
そして犯人が捕まってからはモヤモヤしてたのが一気に晴れたみたいで、あの日の事は全く思い出さなくなっていたんだ
だからもう大丈夫だって思っていたのに、こんな形で思い出すなんて…
「リュウ!コナンくん!」
零の声と足音が駆け寄り、蹲るオレの目の前にしゃがんだのを、零の足元が視界に入った事で把握する
顔も上げられずにいると、すかさずコナンが経緯を説明してくれた
捜していた人物は見つからなかったって事と、松田の事…
「ごめん、僕が松田刑事の事を聞いちゃったから…」
それを聞いた零がオレを抱き上げながら驚いていると、コナンは慌てて 松田の事は知り合いの刑事に聞いた事があっただけ と誤解のない様に言っていた
そんな中オレは抱きかかえてくれている零の服をぎゅっと握って、背中を行き来する零の手に促されながら目を閉じた
落ち着こうと思って深呼吸をしてみれば、大好きな香りとポアロの甘い香りが鼻をくすぐる
次第に伝わってくる零の体温の心地良さに、息は少しずつ整い始めてきた
「リュウがその話をするのは滅多にない事なんだ。君はリュウから余程信頼されているみたいだね」
そう言った零の声色はどこか嫉妬が混じっている様に聞こえて、あぁ愛されてるなぁなんて思ったら、スッと気持ちが軽くなった