第12章 米花商店街の魔女
3年前のあの日、捜査一課に配属された松田が爆弾魔を追って警視庁に缶詰になっていたことは、事件前日に萩のお墓参りで会っていたから知っていた
だから爆破事件の現場に要請が掛かった時は妙な胸騒ぎがしていても立ってもいられなかったんだ
検証に使う道具一式を持って先輩の後を追い、とにかくこの爆破事件に松田が関わっていませんようにと願いながら現場へ急行した
現場へ着けばお馴染みの黄色い線が一般人と関係者を隔てている
この線を超えた先には観覧車
そしてなんとも言えない表情をした刑事達がオレ達を迎える
その顔ぶれを見た時、松田の配属された三係だということはすぐにわかった
オレの願いは早くも叶わず、この場にいるであろう松田の姿を探す
でもキョロキョロと周囲を確認するも、松田の姿はない
アイツのことだ、きっと爆発した爆弾をオレ達鑑識よりも先に確認しに行ってるに違いない
そう思って現場となった観覧車のゴンドラに目をやるがそれでも松田の姿は見えなかった
ゴンドラへ向かう前に現場の状況を聞くと、刑事が1人ゴンドラへ乗り込み、爆発寸前に犯人から送られてきたメッセージを受け取り待機の刑事へ伝達、その直後爆発に巻き込まれたと言う
『ゴンドラへ乗り込んだのは松田巡査部長…我々の仲間が命をかけて多くの民間人を救ったんだ。どんな小さなことでもかまわん。犯人に繋がる証拠を見つけ出して欲しい』
現場を指揮していた目暮警部からそう言われた時、頭を鈍器でおもいきり殴られた様な衝撃が走った
嘘であって欲しい、夢であって欲しいと、何度も何度も心の中で唱えるが、この現状が変わる様子はなかった
すぐにゴンドラへ向かわなければならないとわかっていても現実が飲み込めず足が動かない
先輩に引っ張られながらゴンドラへ近付けば、焼けた匂いが鼻にこびり付く様に現実を突きつけてくる
『どんなに酷かろうが被害者からのメッセージは必ずある。それを見つけるのが俺達の仕事だ。目を背けるな』
そう言われながら恐る恐るゴンドラを覗いたが、はっきり言って見るに堪えない現場だった
そして被害者が昨日会ったばかりの苦楽を共にした友人だと思うと、嗚咽さえ込み上げてくる
持ってきた道具を準備する手も震え、先輩からの指示も全く頭に入らず、終いには息すらまともに吸えなくなりその場に蹲った