第11章 紅の出張
拘束されたままへなへなとその場に倒れる犯人
意識はあるみたいだけど、零の一撃にだいぶ参っている様だ
「ねぇおじさん、何で今日悪い事しようと思ったの?今日はねぇ、周りにたーくさん警察官がいる日だったんだよ」
「ぇ…にほ、ん…ご…」
倒れる犯人の顔の前にしゃがんで溜め息混じりで話をした
英語しか話せないと思っていた犯人はオレが日本語を使い始めて混乱している様だった
「オレねぇ、おじさんは英語が通じない、刃物は偽物、いつでも確保できるよって英語で話してたんだ。オレに構わず走って逃げてれば時間稼ぎくらいはできたかもしれないね」
それを聞いた犯人はオレを見上げていた顔を下げ、愕然としている
偽物の刃物なんか使ってオレの話に耳まで傾けて、何やってんのさ、と呆れて言えば、唇にグッと力を入れ気持ちを堪えている様だった
たったこれだけの話で後悔した様な表情をしたんだ、あとは取り調べに素直に応じるだろうし、しっかりと罪を償うんじゃないかな…
「…まぁ何が言いたいかって、おじさんの心の中にはまだ良心が残ってたんじゃないかってはなし。犯行前に色々悩んだんじゃない?人を殺さずに金目の物を奪うには~とか。悩むくらいなら、悪い事はしないで他の選択ができれば良かったよね…」
「ずびまぜんでじだ…」
ひったくりの被害者も怪我なく落ち着いているし、俺も無傷だ
周りの観光客も警官によってこの場に留まらないよう言われ各々観光に戻っている
目から大粒の涙を流して反省する犯人の口から謝罪の言葉も聞けて、大きな事件にならなくて良かったと一安心!…したのも束の間で…
「リュウさん、マジ天使です…」
「経験豊富すぎやしませんか…」
気付いた時には目の前で犯人を拘束している部下2人がウルウルと感動の目でオレを見ていた
ヤバい…子どもを装うの忘れてた…
ってかコイツら最近オレのこと天使って呼ぶの隠さなくなったよな…
「ったく、犯人に優しすぎるんじゃないか?」
「っちょ!」
ずっと隣りでオレが犯人と話すのを見ていた零に抱き上げられ、ギュッと腕に力を込められた
「みんな見てるからっ…!」
恥ずかしさから離れようとバタバタしたが、
「…心配した」
そう言われてすぐに抵抗を止めた