第9章 純黒の悪夢
20秒…
「さぁ…先に鳴くのはどっちだ…?」
銃を使う現場なんていつぶりだと思ってんだ…簡単にライフル預けやがって…
なんて、震える身体を抑えようと赤井に一言文句をぶつけてみる
そう考えられるくらいの余裕はあるみたいだ
あとは集中しろ…
標準はズレていない…このまま人差し指を引くだけだ…
10秒…
ここからはウォッカの1秒ごとのカウントが始まる
残り10秒で零の命が……オレの人差し指一本で、零の命が…
5…4…3…
なんとしてでも救ってやるという気持ちと、不安と、緊張と、恐怖が混ざって、なんとも言えない感情に固唾を飲む
2…1…
「まずはキサマだ…バーボン…」
ここだッ…!!
ゼロの直前で思い切り人差し指を引いた
ビシュッ━…
ガンッ…ガシャンッガランガラン━━…
サイレンサーの付いたライフルからは殆ど発射音はせず、代わりに倉庫の中から落ちた照明と真下に置いてあった投光器がぶつかって倒れたであろう音が響いた
そして撃ったオレはというと、発射の衝撃と振動で右手はジンジンするし、心臓は飛び出しそうなくらいドクドクと音を立てている
「ラ、ライトが!」
「動くな!!」
中はどうなった…!?
未だ震える足をなんとか立たせてコンテナを下りる
壁の穴を覗くと中は真っ暗で、作戦通り奴らの光は奪えたようだ
だが、これでは零がどうなったかが全く見えない…
この暗闇に乗じて逃げる事が出来ただろうか…
「バ、バーボンがいない!?」
すぐにベルモットがスマホのライトで鉄柱を照らすも、そこには後ろ手に繋がれぐったりと俯くキールしかいなかった
良かった…とりあえず零は拘束から抜け出す事は出来たようだ
でもまだ身動きが取れず倉庫の中にいる筈で、それにジンが気付いたら倉庫内をくまなく捜されてしまう
ジンが鉄柱に近付いてきて零が付けていたであろう手錠を広い上げ「くっ!」と奥歯を噛み締める
するとバンッと入口のドアが開き、外の夕日が倉庫内に吸い込まれるように入って来た
同時に走り去る様な足音が聞こえ、「追え!」とジンの命令でウォッカが外へ走り出て行く
ドアが開いたのは零が逃げ出したからだろうか?
覗くのをやめ周りを見渡すも、零が倉庫の裏の方に逃げるような音はしない
するのは相変わらず落ち着かないオレの心音だった…