第9章 純黒の悪夢
あの暗闇の中よく零が手錠の鍵を外したのが見えたなと感心しながら、今はその作戦に賭けるしかないと強く頷いて見せた
「最後に1分間だけ猶予をやる…先に相手を売った方にだけ拝ませてやろう…ネズミのくたばる様をな」
チャンスは1分…この1分で零を救わなきゃ…
「(俺は入口に回る。照明を撃ち落とすのは任せた)」
「(へっ!?)」
予期せぬ言葉に思わず大きな声が出そうになったのを小声で留めた
「(標準は照明に合わせて固定してある。あとは引き金を引くだけだ)」
ちょっと何言ってるか分からない…
赤井が倉庫の入口に回って、オレはここから照明を撃ち落とすと?
「ウォッカ!カウントしろ!」
「了解…」
そうこうしているうちに「60秒…」とウォッカのカウントが始まってしまった
「(カウントがゼロになる直前で撃つんだ)」
「(ライフルなんて使ったことないもん無理だって!)」
「(銃の腕前は良かった筈だが?)」
組織時代のオレを思い出してそう言っているんだろうけど、銃の腕前で言ったら零と赤井には及ばないし、何よりライフルなんてそこらの銃と同じ感覚では使えたもんじゃない!
50秒…
赤井はもう一度スコープを覗き位置を確認すると、隣りに膝を着いてしゃがんでいたオレの両肩に手を置き、頷く
「(固定を動かさなければ大丈夫だ。信じろ)」
「(でも…)」
いや、ここで拒否している時間はもうない
不安しかないし、何言われてるか本当にわからないけど、こうなったらもう赤井を、そして自分を信じるしかないと思い、ゆっくり頷き返した
40秒…
頷きを見て赤井は素早くコンテナから飛び降りて行く
オレはすぐに固定されたライフルを動かさないように引き金の場所を確認しながら人差し指を掛け、スコープを覗いた
きっと姿勢は不格好…
でも今はとにかくカウントに合わせて引き金を引くことだけに集中しなければ…
30秒…
「仲良く互いをかばい合ってるというわけか…」
「かばうも何も、僕は彼女がNOCかどうかなんて知りませんよ!」
「私だって!」
中から聞こえてくる零と水無の声に緊迫した状況が伝わってくる
そしてこのオレの人差し指に全てが掛かっていると思うと、ものすごくヤバい…身体が震えて…指が…上手く動きそうにない…