第9章 純黒の悪夢
電話で話しながら車へと戻る
乗り込む前に一瞬赤井が驚いた様な顔をしたのが見えて嫌な予感がした
そして「了解」と電話を切るとすぐに聞いた内容を教えてくれた
「各国の諜報部員が3人暗殺されたそうだ」
「それって…」
スタウト・アクアビット・リースリング…
3人に共通するのはお酒の名前で、つまり例の組織に潜入していた捜査官達である
潜入捜査官が暗殺…やはりNOCリストが組織の手に渡ってしまっている…
「どうしよう…これって、かなりマズいよね…」
「組織に潜入している捜査官が消されるだけでなく、NOCリストが公開されれば世界中の諜報機関が崩壊するかもしれんな」
日本警察が掴んでいる世界中のスパイの情報が盗まれた為に、多くの捜査官の命が危ぶまれる…
これでは日本の信頼も失ってしまうじゃないか…
「オレ達公安が守れなかったせいだ…」
「…まだやる事は残っている。悔やむなら手を尽くしてからにするんだ」
ゆっくりと車を走らせながら立ち並ぶ倉庫の間を巡回する赤井は、既に次のことを考えている様だった
「組織の3人が暗殺ということは、次に狙われるのはキールとバーボン。場所も時間もわかっているなら上手く逃がすことだって可能だ。それにキュラソーを捕まえればNOCリストの行方がわかるだけでなく、組織のことが何かわかるかもしれないだろう?」
3人が暗殺されてもやることは変わらないと赤井は言う
確かにオレが悔やんでたところで状況は変わらないし、今やれることをやらなくちゃ…
「…夕方ここに組織が集まるのであればキュラソーもここを目指して逃げて来ると踏んだが…現時点では何も無いようだ」
10kmにも満たないスピードでじっくりと走るマスタングから目を凝らして周囲を伺うも、不審な点は特になさそうだった
見たところこの港には防犯カメラはないようだし、ジン達はそれをわかってこういった場所を選ぶんだろうな
「FBIも割り出した捜索範囲内で行動するの?」
「いや、事故現場周辺は日本警察の目があるからな、捜索範囲の一番遠い所をリサーチすると言っていた」
なるほどと言いながらタブレットで再度地図を出す
捜索範囲内は公安が、事故現場は交通課や刑事が、海上は海保が、そしてこの倉庫の場所は地図で言ったらこの辺で…他に見落としてそうな場所は……