第9章 純黒の悪夢
零の立場も、考えてることも、そうしなくちゃいけないってことも、全部わかってるからこそわかりたくない
これから命が狙われるかもしれない場所に、はいわかりましたと簡単に送り出せる訳がないじゃないか…
「いつ組織に呼ばれるかわからない。しばらく会えないと思っていてくれ」
「行くならオレも一緒に行く…」
「ダメだ。必ずここから離れて身を隠すこと、いいな?」
「嫌だ…」
「頼む…僕の最後の願い…聞いてくれ…」
「嫌だっ!最後だなんて言うなよ!!」
何が最後だ!
まだNOCということがバレたと決まったじゃないし、回避する術もあるはずなのに、本人が最後だなんて言うなよ…!!
「叶音…お願いだから…」
「……っ」
もう、何を言っても零は自分のやるべき事をやりに行くだろう…でも、もし、もしこれが本当に零との最後になってしまったらと思うと、やるせない気持ちが込み上げてくる
「わかってるんだけどっ…嫌だぁ…!」
「すまない…」
零の言葉にハッとして少し落ち着こうと深呼吸をすると、今度は零に背中を摩られる
これ以上は零を引き留められない…か…
そう思って零の大きな手を両手で包み、目を合わせて祈る様にお願いした
「じゃあ…どうか生き延びて…オレの所に帰ってきて…」
「叶音…」
「帰ってきたら一緒に休暇取ってどこか旅行に行こう。美味しいもの食べに行ったり…あ、近場だけど明日リニューアルオープンする東都水族館にも行きたい!観覧車に乗ったり、ショー見たり…零と一緒に、普段じゃできないこといっぱいしたい!ほら、まだまだやることいっぱいあるよ!だからっ…だから…」
次から次へと溢れ出る涙に負けない勢いで言葉を繋いだ
覚悟を決めても“本当は行って欲しくない”とか、“このまま2人で逃げよう”とか、零を引き止める言葉がどうしても口から出そうになり葛藤で言葉が詰まる
すると零が涙を掬いながらクスッと小さく笑った
「僕がお願いをしていたはずなのに、盛りだくさんなお願いをされてしまったな…」
「叶えて、くれる…?」
「叶音にお願いされたのであれば、何が何でも戻って来なきゃな」
そう言う零に力一杯抱きつくと、しっかりと受け止めて優しく頭を撫でてくれる
このまま繋ぎ止めることができれば良いのに、そうさせてくれない現実に胸が痛くて堪らなかった