第1章 プロローグ/公安の彼ら
「零さんコレ、頼まれてたデータな♪」
公安内の降谷の部署に、場所に似合わない幼い声が跳ぶ
音月リュウ、10歳
アメリカ育ちの日本人で、情報技術特別研究員として公安へと配属されている若きエースである
なぜ10歳の少年が、と戸惑いもあったが、上官や直属の上司である降谷が連れてきたともなれば話は別
この国にとっての重要人物ということに間違いはないのだろう
というのも、10歳というまだ幼さ残るこの少年、情報技術に関しては大人顔負けのプロ級のプロである
情報収集、情報操作はお手の物、機械を扱わせたらすぐに仲良くなってしまうとんでも少年で…
「友達?んなの機械とこの部署のみんながいれば十分!」
そんなことを言いながらニコっと笑うだけで、部署内にお花が咲き乱れる
花咲かじいさんならぬ花咲か少年とはリュウのことで
「リュウ、部下に花はいらないよ」
にらみの効いたオーラで花を枯らせていくのは上司である降谷だ
この二人は初日から阿吽の呼吸で仕事をこなしていくもので、周りはその二人のやり取りにある一人の人物を思い浮かべる
―――星影叶音
リュウがここへ来る前に鑑識課から公安に所属し、降谷と同期で有能な右腕であったとある男だ
しかし突然叶音がFBIからの要請でアメリカへ向かったのと交換に、リュウが公安へと配属されたのだった
「叶音さん今頃何やってんだろうなー」
「挨拶もできないままFBIに行っちまったし、連絡も全然だし」
「降谷さんもよく渡米を許したよな。あの二人、相思相愛だったんだろ?」
「しーっ!上司が悪魔になるぞ!」
「無駄口を叩く暇があるようだな」
悪魔の微笑みと共にデスクに置かれる書類の束、涙する部下たち
「じゃ、オレ研究室に戻るから」
「あぁ。この前の事件の資料、あとで持って行く」
「はーい。じゃ!みんな仕事頑張ってね!」
ニコッと笑う少年に部下一同の「天使だぁー!!!」の心の叫び、降谷のため息
今日もリュウの周りには、アイラブ天使な同僚が一生懸命働いている
「この書類を片付けないとリュウ研究員に届けられないことを忘れるなよ」
この後の仕事への取組みといったらとんでもなく素晴らしく、誰が書類を届けるか、争奪戦になったことをリュウは知らなかった…