第1章 プロローグ/公安の彼ら
降谷の部署と同じフロアに位置する、とある研究室
ここへは限られた刑事しか入ることが許されない
そんな特別な部屋を覗くと、パソコンの前で指を組み険しい表情を見せる少年が一人
先程笑顔を振りまいていた公安の天使ことリュウは、研究室に戻ってからずっと簡単とは言えない英数字らしき物と格闘をしていた
10歳とは思えない知識と仕事に取り組む姿勢
そう、信じがたいことに、彼は29歳
先ほどの部下たちが思い思いに言っていたFBIへ行ってしまった男、星影叶音、本人である
叶音は例の組織に潜入しながら情報収集をしていたが、組織のデータを抜き取ろうとした際に見つかってしまい、拘束された挙句開発中の薬の実験体にされてしまったのである
死亡確実と思っていたが、実験結果は別のもので、気が付くと体が縮んでいた
薬の服用から長い月日が経つが、自分の身体を調べてわかったことは、体内の成分量や平均的な数値から、およそ10歳の子どもと同じだということ
「数値からの薬物成分特定は無理かぁー…」
「眉間の皺が寄ってるぞ」
「零!?いつの間に…」
ノックはした、と机に書類の入った封筒を置く降谷は、リュウの眉間を人差し指で撫でる
「集中しすぎだ。折角の若い顔が台無しになってる…皺になる程没頭しない方が良い」
「べつに若い顔になりたくってこうなった訳じゃ…!」
「…すまない、そういう意味で言ったつもりはなかったんだ」
行き詰った感情をぶつける様に言ってしまったことにすぐ気が付くが、出てしまった言葉は速く、聞いた降谷は悲しげな表情でリュウから離れ、部屋の隅にあるソファへと腰掛けた
降谷がそんな表情をするには深い訳があり、並ならぬ後悔を一人抱えている
そしてリュウは降谷にそんな顔をされるとどうしたら良いのかわからず、しゅんと肩を落とすのだった