第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
抱きかかえられたままのエレベーターはまた浮遊感が違っていて不思議な感覚である
なかなか下ろしてもらえないんだけど、このまま部下の所まで行く気なんだろうか…
「沖矢昴に送ってもらったんだろ?」
直接会うことは避けたみたいだけど、やっぱり降りた所を見られていたんだな…
何もなかったかと頬に手を添えられ、オレの顔を心配そうに見つめてくる零
「何もなかったよ。許した訳じゃないけど謝ってくれたし、一発殴ったから少しスッキリした」
大丈夫だよって本当はキスして返したいくらい顔が近いけど、邪魔をするようにエレベーターは目的の階に辿り着きドアが開けられる
「僕も殴ってやりたかったけどできなくて…リュウが殴ってくれたなら良かった」
「うん、色々ありがと…」
キスができない代わりに首に回していた腕に力を込めてピタッと肩にくっついた
もう部下の所に着くけど、このままでいいや…
「リュウ…そのままちょっと部下をからかってやろうか」
「からかう?」
耳元でごにょごにょと作戦を聞かされる
時々こんな子どもっぽくなる零がオレは大好きだ
「じゃあ頼んだよ」
「はーい♪」
そのまま零の肩に顔を押し付けギュッと抱きついたまま部署まで運ばれる
入口をガラッと開けると、神妙な面持ちでオレを抱かえる零に部下達が次々と寄ってくる音が聞こえたので、作戦通り泣いているフリを始めた
「降谷さん…?」
「リュウさん何かあったんですか?」
「FBIに何かされたとか…」
「怪我とかしてないっすよね!?」
ザワザワする部下達の声に泣くフリも笑いに変わりそうで堪える
「FBIの方で動きがあったみたいでね…元々FBIから来ていたリュウ特別研究員だが……っ」
そこで言葉を詰まらせるフリをする零もなかなかな演技派だ
「えっ…」
「まさか…」
「嘘だ…」
きっとこの後零が、オレがFBIに戻ることになった、と言うんじゃないかと予想しているに違いない
「来葉峠でFBIに連れて行かれた後…話し合いをして…」
「………」
零の耳元で小さくせーのと言いながら、部下に顔を見せる為に振り向き零と言葉を揃える
「「無事に帰還しました!」」
イェイ♪とピースをしてニッコリと笑って見せた