第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
「警察庁の裏、でしたよね?」
「え、あ、うん」
目的地に近付いてきたからか突然声を変えて沖矢さんになる赤井に驚いた
やっぱりこうやって人物を分けることができるってすごいなって思う
今日話した赤井が元なんだろうけど、それを普通とするなら、それより荒い感じがライで、穏やかな感じが沖矢さんってところかな…
「夜道に子どもを置いて行くのは忍びないのですが…」
今は零と接触は出来ないから近くで降ろしてくれると言う
「大丈夫、裏から駐車場に入っちゃえばそこにはもう警察官しかいないからさ」
と言ってもその警察官とも会わないようにしないといけないんだけど、零に連絡を入れればすぐ降りてきてもらえると思うしそれまでなんとかしよう
「今日は君に会えて良かったです」
「うん、驚くことばかりだったけど、赤井が無事で良かったし、沖矢さんのこともわかって良かった」
「私の顔と声、少し慣れましたか?」
「うーん…もう少し気持ちの整理がつけば大丈夫だと思う…」
沖矢さんの中身が赤井とわかって話すうちに嫌だなって気持ちは少し薄くなったと思う
あとは零と話せば残りのモヤモヤも消えてくれるかなって思ってるんだけど、それはさすがに都合良すぎるかな…
「っていうか…何であんなことしたの…?」
根本的な理由を聞いていなかったと思って恐る恐る聞いてみた
「さすがに変声機を見られたら困りましたし、これ以上こちらの領域に踏み込むなという警告のつもりだったんですけどね…」
逆効果だったかもしれません、と言ったのは零に火を付けてしまったからだろう
「それに君からあんな誘い方されたら、断れないでしょう?」
「あんな…?」
「ほら、私ともーっと仲良くなりたいとか何とかって…」
「あー!知らない覚えてない!忘れて下さい!」
確かにそう煽った記憶はあるけど、さすがにリピートされると恥ずかしくて両手で顔を覆った
沖矢さんは逆にニコニコだし…なんだよもぉー!
なんて照れてる間に警視庁はもう目の前で、裏通りに曲がった所で防犯カメラの死角に車を停めてもらう
「安室君と合流するまで気を付けて下さいね」
「うん、送ってくれてありがとう」
車を降り、窓越しに手を振って見送った
よし、零に連絡しよ…
「リュウ!」
スマホを取り出す間もなく名前を呼ばれ振り向くと、スーツ姿の零がこちらに走って来ていた
