第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
「意外に遅かったですね…」
病院を出た車は少し移動した所で停車し、助手席にひとり乗せながら零が話し掛けた
ベルモットが来た…そう思ったが、聞こえてきた声はジョディさんだった
「彼女のスカーフに似た柄がなかなか売ってなくて…」
「なるほど…で、首尾は?」
「楠田って男…あなたが予想していた通り拳銃自殺したそうよ…自分の車の中でね」
ビリッと何かを剥がす音がしたのと同時にジョディさんの声がベルモットの声へと変わる
そうか、さっき病院で零からキャメルさんを離したジョディさんはベルモットだったんだ…
その時に油断したキャメルさんからベルモットが楠田の情報を聞き出したんだな…
やはり楠田は自殺…もうこの世にはいないという確認が取れた
来葉峠での死体のすり替えは成立する…!
「ところで何なの?後ろの子どもと犬は…」
「前に依頼人の所で仲良くなった子で、病院の入口でたまたま会ってしまいまして…なかなか離れてくれないので家まで送って行こうかと」
「……」
「ただの子どもですし、睡眠薬でぐっすりなので問題ないですよ」
病院の入口でたまたま会った、前に仲良くなったただの子ども…
ベルモットが降りるまでこのまま起きることはないだろうけど、そういう設定だってことは覚えて行動しなくっちゃ…
「それで?何なのよ楠田陸道って…」
ただの子どもが寝ていると容認してくれたようで、コードネームも与えられていない組織の一員が拳銃自殺したから何だって言うのとベルモットが問う
「拳銃で自殺する場合あなたならどうします?」
「そうね…銃口をこめかみにあてて…」
「そう、弾痕は頭蓋骨にしっかり残る…たとえ遺体が燃えようと」
え?と何の話をしているのかと言いたげなベルモットの声が聞こえた
「いましたよね、楠田の消息が途絶えた頃…時を同じくして頭を撃たれて焼かれた男が」
それってまさかと驚くベルモットの脳内にはオレ達と同じ男が映ったに違いない
そう、オレ達が今追っている、FBI捜査官…赤井秀一
「まさかあの男が生きてるっていうわけ!?」
「ええ、僕の推理が正しければね」
零の言葉を聞いたベルモットが高らかに笑った
何バカなことを言っているんだとでも思っているんだろうな…