第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
今…何が起こった…?
気付けばハイネックをめくりにいった手と一緒にもう片方の手が沖矢さんの片手でまとめられていて、背中は座席にくっつき天井が見える
驚きを隠せない目は見開くが、口は沖矢さんの手が頬を掴むように塞ぎ開くことを許さない
足も座席と沖矢さんの足に挟まれて身動きが取れず、完全に拘束された
「全く、油断も隙もありませんね…」
上から覗き込む様に沖矢さんの声が降りてくる
首を横に振っても、口を塞いだ手は離れない
ヤバいぞコレは……
「あの手の様なトラップを仕掛けるなら、出会うその前から仕掛けていかなくては中途半端でバレてしまうと…そう教えた筈ですよ…」
「………!」
「前に言った弟の様な彼にですけどね」
組織潜入したての頃、取引相手から情報を得る為にライから教えられたことがある
沖矢さんは似ているので言いたくなりましたと言うけれど、あれは明らかにオレの正体を知っていて言った言葉だ
やはり沖矢さんは赤井秀一…!
「んんんっ!」
赤井と言いたいがはっきり言えず、言葉が籠る
キッと睨み付けながら手を振りほどこうと動くが、子どもの力じゃどうにもならない
「首元を気にしていたようですが、こちらとしては君の首元の方が気になりますけどね」
口を塞ぐ手で横を向かされ、首筋が露になる
「以前よりだいぶ薄くなりましたね…」
沖矢さんがそう言うのは、零に付けられた痕のことだろう
おそらく発信機を取ってもらった時に襟を引っ張られたから、その時に見られてしまっていたんだと思う
「随分大人っぽい子どもだと思っていましたが…想像以上にだいぶ大人な様だ…いつもさっきの様に誘っているんですか?」
“透兄ちゃんのこと…”
耳元で話され、息があたり身体が跳ねる
反射的にギュッと目を瞑ると、その一瞬を突かれ首筋にやわらかい感触が当る
薄ら横目で見ると耳元にあった沖矢さんの口元は首筋へと降りてきていた
「んーっ!んんっ!」
まさかと思って思い切り押しのけようとするが、力で適うはずもなく逆に力を入れられ元に戻される
「もーっと仲良くなりたいんですよね?すぐに済みますからじっとしていてください…」
じっとなんかしていられるかと思っても完全に押さえつけられてしまい身動きできない
元の身体なら蹴飛ばして逃げることができるのにっ…何もできないなんて…
零……助けてっ…!
