第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
「普段はあまり来ないんですが、豆腐の特売があってとてもお買い得だと聞いたもので…今日はこちらまで来ちゃいました」
「そ、そうですか…」
さて困ったぞ…
しばらく会うつもりがなかった上に意表を突かれて現れたもんだから、心の準備というか、構えというか、あとは帰るだけと思って完全にオフモードな頭だから言葉がなかなか出てこない
3つ目の豆腐をカゴに入れて、早くこの場を去ろう…
「じゃあオレはこれで…」
「豆腐たくさん買われるんですね」
「まぁ…今、オレ的に豆腐ブームなので…」
レジに向かって足を進めると、何故か一緒についてくる沖矢さん
そして逃がさないぞと言うように次から次へと話し掛けてくる
「白菜やチンゲン菜もカゴに入っているということは、お鍋でも作るんですか?」
「いえ、湯豆腐を…」
「湯豆腐ですか…オススメの味付けとかありますか?」
「えっと…ポン酢とか?」
「ポン酢…ですか…?」
なんなんだこの人!
そしてなんなんだ自分!
話の流れでポン酢のコーナーにまでしっかり案内してしまったではないか…!!
そんでポン酢買うんか沖矢さん!!
「じゃあオレ、もうお会計なので…」
「一緒にレジに行きましょう」
「………」
離れようとしてもしっかり後をついてきて離れようとしない
結局2人でレジに並び、買ったものを袋に詰め込んだ
そしてそのまま2人で買い物袋を片手に店の外に出ると、急に沖矢さんに空いている方の手を握られた
「あの…沖矢さん??」
「駐車場は危ないですからね!」
ムッ…
「オレそんな子どもじゃないです」
「えぇ、知っていますよ」
え…っと…それはどういう意味だろうか…?
不思議に沖矢さんを見上げると、ニッコリとした笑みが降ってくる
「少しお喋りに付き合ってもらえませんか?」
オレは早く家に帰りたいんだけど、意味深なことを言われてしまっては気になってしまうじゃないか
それに握られている手は離してもらえそうになさそうだし…
「もうすぐ夕飯の時間だから、少しだけなら…」
「えぇもちろん。一緒に住んでいる彼に心配されてしまいますからね」
「えっ!?」
思わず声に出して驚いてしまった
誰と住んでいるかなんて話したことないのに、どうしてピンポイントで〝彼〟と言うのだろうか
普通ならそこは母親と言うべきでは?
やっぱり、沖矢さんは……赤井秀一…?
