第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
工藤邸の門を開けると玄関が開き、沖矢さんが出迎えてくれた
「すいません、ありがとうございます」
「もー、どうやったら鍋の蓋が飛ぶんですか?」
呆れながら鍋の蓋を手渡すと、ちょっとこちらへと玄関の中に手招きされた
「オレ急いで帰らないといけなくて…」
「えぇ、わかってますよ」
聞いてましたから、と鍋の蓋を玄関先に置いてオレの前に膝をついてしゃがむ沖矢さんに、聞いていたとはどういうことかと疑問に思った
小声で話していた電話が聞かれてしまっていたら色々と怪しまれてしまいそうだが、2軒の間はそこそこ離れているからきっとそれはないだろう
そうではなくコナンとの会話が聞かれていたとしてもまずいんだけど…
「すぐに終わりますから、後ろを向いて」
「後ろ?」
くるっと沖矢さんに背中を向けるとハイネックの首元を引っ張られた
「えっ、何っ!?」
「動かないで」
慌てて振り向こうとするとオレの首元から何かを剥がしているようで、それを取り終わるとすぐに離してくれた
「何かついてました?」
「コレですよ…」
沖矢さんの人差し指の指先に乗っていたのは小さな丸いボタンの様なシールだった
コレは一体…
「発信機ですね…盗聴できるタイプの物ではなさそうなので安心してください」
発信機…またコナンの奴だな!?
でもなんで沖矢さんが…
「何故私が…と言いたそうですね」
読まれている…
「庭に出て電話をしている君を見つけて、見ていたら後ろからコナン君が何かをつけていたんです。それが何か気になっただけですよ」
「それで鍋の蓋を投げてオレを呼んだんですか?」
「いえ、蓋は本当に手が滑ってしまっただけです」
ニコニコとそう言うが、絶対に嘘だ
火の元から離れられないと言っておきながら今は玄関先に出てきている
前回シチューを作っていた時にはしていたはずのエプロンだってしていない
何より料理を作っているような匂いも雰囲気もこの家からしていないじゃないか
それにあのボタンを見ただけで何故発信機と分かる?
これじゃもう、オレにつけられた発信機を取る為に蓋を投げて呼んだとしか…
でもそこまでしてくれる理由って何だ…?
「沖矢さん…あなたは一体…」
「君のことを放っておけない、ただの大学院生ですよ」
口元に人差し指を立てて、まるで裏があるかのように言われた
