第2章 黒に落ちる/小さくなった理由
「……!」
安易に叶音の名前を呼ぶことができず、片手で口を塞ぎ名前を飲み込んだ
「後は我々が」
医師達に運ばれ遠ざかって行く
どうか無事に戻ってきてくれ…
叶音……
叶音……
***
「叶音……」
「れ……れい…?」
運ばれたはずの叶音に呼ばれた気がした
「おーい、零~?降谷零さーん?」
「………ん?」
ぼんやりとした視界が鮮明になり、目の前には首を傾げている小さな叶音の姿が
気づくとここは公安局のリュウの研究室で
「大丈夫?うなされてたみたいだけど」
叶音を寝かせていたはずなのに、いつの間にか自分も眠ってしまっていたようだ
「あぁ…叶音を病院に運んだ時の夢を見ていたみたいだ」
「オレも、ジンに捕まった時の夢見てた」
お互いに顔を合わせて苦笑いをする
それからどちらからということもなく自然と抱きしめ合い、今、この瞬間、この時、この腕の中に、生きて互いがいるんだということを確かめ合った
「何度も何度も叶音の名前を呼んでいたんだ」
「俺も、零の名前、何回も呼んだ」
唇が触れそうなくらい間近で叶音をみつめる
頬を赤くする小さな叶音が、愛しくて、愛しくて……
「ゴホンッ、お取り込み中申し訳ないんですが」
「風見っ!」
「……ノックもしないで入ってくるとはいい度胸だな」
僕はそのままでも良かったのに、風見の一言に叶音が勢いよく僕から離れた
「30分後にと連絡をくれたのは降谷さんですよ?それとノックもちゃんとしました」
あー…念の為の目覚まし代わりに連絡を入れていたのを忘れていた…
「あと、リュウさんに頼まれていた工藤邸と毛利探偵事務所の捜査資料がまとまったのでお持ちしました」
「本当!?風見、忙しいのにわざわざありがとな!」
「僕の聞いてない案件だが?」
「はいはい、今から説明するから、ムッとしない♪」
僕の気も知らないで書類に目を通し始めた叶音は、どこか楽しげに笑っていた…
━2章END━
後程、この部屋はなんでノックの音が聞こえないのかなぁと、ドアを見つめながら真剣に悩むリュウと降谷がいたとかいなかったとか……