第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
零は仕事に行ったか…
薬と共に置かれたメモには「8110HP」とだけ記されていた
薬を飲めば8110まで体力が回復すると?
…なんてゲームじゃないんだから、と自分でボケてツッコミを入れられるくらいまで元気は戻って来たかもしれない
8110=杯戸
HP=病院
とまぁ簡単なメモだったが、「杯戸病院に行くからスマホは通じない。何かあれば風見に」だろうな
杯戸病院は確か組織のスパイが入院患者として潜入していたと聞いたことがある
今度はそいつのことを追っているのだろうか…また危険なことをしていないといいんだけど…
━━ピピッ
測り終わりの音が鳴った体温計を確認すると熱は37.8℃とやや高めだが、昨夜に比べたら下がった方だ
零が冷蔵車に入れてくれたであろうご飯を食べて、薬を飲んで寝てようか…でも食欲ないな…
もう一度ヨコになり天井を見つめていると、玄関の方から鍵の開く音がした
零が帰って来たかな?と思ったけど、いつもと物音が違う
こんな時間に、一体誰だ…
インターホンも押さず、ピッキングだったとしても入ってくるには物音を立てすぎだ
泥棒か…組織の人間…いや、来ることはないと思うが、万が一のことがあってここに来ることがあったとしたら…
隠れるなり逃げるなりを頭で考え、フラフラしながら玄関に続く廊下のドアの影に身を潜めて様子を伺う
「アンアアーンッ!!」
しまったハロを忘れてた…!
勢いよく玄関に向かって行ったハロを安易に追うこともできず、背後から聞こえてくる音に耳を傾けるしかなかった
すると、玄関からは意外な声が聞こえてくる
「お久しぶりですワンちゃん!元気そうでなにより!」
「キャウ~ン!」
玄関を見ると、見慣れたオリーブグリーン系のスーツがハロと戯れているではないか
「風見!?どうしたの…?」
「リュウさん!寝てなくて平気なんですか!?」
いや誰のせいで布団からここまで来たと思ってるんだ
こっちは最悪の状況まで考えたのに
でも、
「風見で良かった…」
はぁー…と拍子抜けして床に座り込んだ
「あ、驚かせてしまいましたか!?実は降谷さんに様子を見に行って欲しいと鍵を預かったんです…」
お返ししますと受け取った鍵は確かにウチの鍵だった