第8章 嘘の裏側/緋色シリーズ
‹8章嘘の裏側›
カーテンの隙間から差し込む光に目を覚ました
光は明らかに朝のものではなく、影は昼を過ぎた頃の方向を向いていた
部屋には誰もおらず、枕元には常温の水が入ったペットボトルと市販薬とメモが置いてあった
重たい身体を起こすと、熱を吸収した冷却シートの端がハラりと額から離れていく
そうだ…オレ、熱出たんだった
事件に巻き込まれて冷蔵車の荷台に乗り身体の芯から冷やしてしまったのが原因と零に言われたけど、その後色々な情報が手に入り、きっと今までの張り詰めた気持ちが緩んだのも原因の1つだったと思う
その情報の1つはミステリートレインでのシェリーの行方のこと
シェリーと哀ちゃんは本当に同一人物で、爆発した貨物車に乗ったシェリーは怪盗キッドの変装だった
組織にはシェリーが死んだという情報が流れたが、実際はオレと同じで幼児化した姿で生きているということが確実になり、更にその哀ちゃんとは仲良くなれそうな気がしてホッとしている
そして一番重要だった情報はAPTX4869の解毒薬のこと
オレがそれを服用してから独自の方法で薬の成分を調べるも検出されることはなく、解毒薬に辿り着くことは到底無理に等しかった
だが開発者であるシェリー、灰原哀が、今現在進行形で解毒薬の開発を進めているとのことだ
しかも試作品として一時的に元の姿に戻ることが可能な物は出来上がっているというではないか
元の姿に戻ることはないのではと不安しかない日々を過ごしてきたが、元の姿に戻る方法があるとわかって安堵した途端のあの何とも言えない脱力感
思った以上に気を張って過ごしていたんだと自分でも驚いたくらいだ
帰宅後零に着替えを手伝ってもらいながら布団に入りこの事を伝えると、零も「良かった…」と強く抱き締めてくれた
一時的な解毒薬を哀ちゃんはオレに分けてくれようとしてくれたけど、元の姿を組織に見られてしまってはオレだけでなく零にまで危険が及ぶかもしれない
組織が壊滅するまで、解毒薬がきちんと完成するまでは手元にない方が良いかもという判断も、零は賢明だと言ってくれた
それから熱が更に上がり風邪薬を飲んで寝ていたら、あっという間に日付を跨ぎ昼を過ぎていたんだからビックリする
仕事も休暇の手配を取ってくれていたのはわかっていたから、ここぞとばかりにだらけてしまった気がする…