第7章 冷たい宅配便/小さな科学者と
赤信号で停車している間に自分の上着を掛けてやると、助手席で眠る小さな叶音に上着を掛けるのはあの日以来だなとふと幼児化した日を思い出してしまった
あの時は毒薬のせいで発熱していて、とても苦しそうで、僕はどうしようもなくて…
ん?
確かさっき寒い感じがすると言っていたよな…
「まさかな…」
片手でハンドルを握りながらもう片方の手を叶音の額や首に当てて様子を伺うと、なんとなくいつもより熱い気がした
おそらく冷蔵車に素足のまま長時間乗っていて身体が冷えきってしまったのが原因だろう
免疫の関係で子どもは大人よりも風邪を引きやすいと聞いたことがある
冷蔵車の中でも大人の感覚で無意識に無理をしてしまっていたのかもしれないし、さっきのあのトロンとした目は体調不良の現れだったのかもしれない
ダルいとか疲れ気味とか何かしら身体に違和感はあったろうから、早く言えば良いものを……いや、そういえば叶音は昔から自分の熱に疎かった気がする
いくら周りが調子が悪そうだと言っても「そんなことないよ?」と普通に生活をするし、熱を測れと言っても「ないから大丈夫」と拒否される
強引に測らせて体温計の数字を見てようやく「だから身体がおかしかったのか」と自覚するくらいだ
きっと今回も自分では気付いていないんじゃないか…?
思えば警察学校時代にも一度そんなことがあって、訓練後に伊達班長がフラフラしてるから熱でも測ってみろと言ったのを拒否し、結果倒れた叶音を萩が見つけ、駆け付けた僕が部屋に運び、ヒロが検温してやり、体温計を見てやっと熱を自覚した叶音に「バカか!」と松田が怒鳴りつけていたな…
そういえば幼児化した時の病院で熱は小学生ぶりだと言っていた気がするが、そんなことはない
忙しさに紛れてあいつらとの思い出を忘れるところだった
起きたら教えてやらないと…
と、その前にまずはドラッグストアに行こう
子ども用の風邪薬は常備していないから買ってから帰るしかない
遠回りをして帰る予定もちょうど良い結果になったが、薬を買ったらすぐに帰ろう
ご飯も食べやすい物を作って食べさせて、早く寝かせて、明日は仕事を休ませて…
叶音ごめんな、話も聞いてやりたいが、熱の状況によってはそれどころではないかもしれないぞ…