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胸の扉

第2章 暁の国


一般庶民から見れば少し大きく、しかしイザークからすればこじんまりした家だった。
しかし調度品はどれも一目見て高級品だとわかるものだった。

「初めまして、イザーク・ジュールです。」

ここにきてきて姫の名前を聞いていないことに気がつく。
このまま待ち続けていれば彼女が出てくると思っていたが、どうやら気づいていないらしい。
いや、わざと出てこないのか。

「失礼します。」

オーブの家庭は玄関で靴を脱ぐらしい。
そばに用意してあったスリッパに履き替える。

数時間前、先に到着していたといっていたが、彼女の姿は見当たらない。

ぴったりと閉まった扉が並ぶ中、一つだけ少し空いている部屋があった。
他意はないが気配を消して、そっと中に入る。

するとそこには女性がソファーで気持ちよさそうに寝ていた。
真っ白な肌と色素のない白く絹糸のような長い髪、そして長いまつ毛も白くその瞳を縁取っていた。

驚きのあまり言葉を失った。
噂で聞いていてた姿と全く違ったからだ。
ゆっくりと近づき、
「こんにちは、」
なんと声をかけていいのかわからず、微妙な挨拶をする。

「ん・・。」
小さく唸るとゆっくりと彼女は目を開ける。
その瞳は薄紫のすんだ瞳で、イザークはその瞳にとらわれて閉まった。

「あ・・。その。初めまして、イザーク・ジュールと申します。」

今までになく取り乱した。
戦場なら死んでいるだろう。

「あ・・・。」
回らない頭をゆっくりと回し、言葉を紡ぐ。

「初めまして、アリア・・と申します。」

小さく声だったが、少し高い声はよく通り、とても可憐な声であった。
心臓が高鳴るのを感じる。
初対面の女性に何かを感じたのは初めてだった。

「あ、アリア様。その、よろしくお願いします。」
どうしてこんなに言葉が出てこないのだろうか。

「ええ、アリアで結構です。よろしくお願い致します。」
ふわりと言う言葉ぴったりの優しい笑みであった。
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