第3章 お互いの距離
朝起きると彼女はベットにいなかった。
軍人であるイザークが気づかないなど、珍しいこともあるものだと、深く考えずに起きる。
ダイニングから紅茶のいい香りが漂ってくる。
「おはようございます、いつお目覚めになったのですか?」
優しく朝の挨拶をする。
「おはようございます、先ほどです。よく眠れましたか?」
初めて会った時と同じ、柔らかな笑みを浮かべていた。
昨日のことに触れられないのが幸いなのだろうか。
「朝はコーヒーですか、紅茶で紅茶ですか?」
ゆっくりしていただろうに、わざわざ立ち上がり用意をしようとする。
「コーヒーですが、紅茶も好きです。同じものをいただいても?」
まだポットに残っていることを確認し、できるだけ穏やかに話すよう心がける。
「ミルクは?」
「いただきます。」
にこりと笑い、綺麗な手つきでティーカップを用意し紅茶を注ぐ。
「ありがとうございます。」
ティーカップを持ち一口口に含む。
さすが一級品の茶葉だ。
香りが高く嫌な渋みがない。
「美味しいですね。」
彼女に合わせてにこりと笑ってみせる。
しかし、なんともつまらない会話だ。
「普段は何をされているんですか?」
どうしても当たり障りのない会話をしてしまう。
「そうですね、温室で花を見たり、本を読んだりとかですかね。」
少し困った様子だ。
あまり踏み込んでほしくないのかもしれない。
「昼どこかに食べに行きましょうか?オーブは詳しくないのですが、前回行ったレストランが美味しかったので。」
「ええ、素敵ですね。」
会話か続かない。
「何かしたいことはありますか?」
「したいこと・・・。したいこと?」
そんなに難しい質問をしたわけではないが、深く考え込ませてしまった。
「もし見つかれば教えていください。」
もう一度にこりと笑ってみせる。
これをあと一週間も続けなければならないとは・・・。
ピピピピとイザークのザフト用の端末がなった。
「ジュール隊長!!!!俺です!シン・アスカです!!」
元気いっぱいな声が端末から聞こえてくる。
「どうした、何かあったか?」
注意したい点はたくさんあるが、彼女の前だ、怒りを抑える。
「今からそっち行くんで!待っててくださいね!!」
ブチっと、反論する間も無く切れてしまった。