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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 摂津 壱



白粉を塗らずとも白く透き通った肌は、月明かりを浴びている所為で一層の輝きを帯びる。
紅で彩られた眦が微かに下がり、色付く唇が緩やかな弧を描く凪の表情に、光秀はそっと息を呑んだ。
正面から伺ってはいないが、凪は小さく笑っていた。
初めて彼女の口元が緩む様を目の当たりにし、好き勝手に囀られた言葉を否定する事もせず、光秀は不意に腕を伸ばして凪の身体を引き寄せる。

「わっ!?」

抵抗の間もなく転がり込んで来た凪の腰へ、当初そうしていたように腕を回した男が、耳朶へ唇を寄せて囁いた。

「言い付けを守らず、勝手に離れて歩くとは悪い子だ。次に破ったらお仕置してやろう。いいな?」
「ちょっとくらい離れたっていいじゃないですかっ」
「俺の言う事を聞くのがお前の役目だと言っただろう。大人しく身を委ねていろ。ただでさえ、お前の大根役者ぶりは酷いものだったからな」

(大根役者は否定出来ない…!)

いつもの調子にすっかり戻るどころか、一層増した意地悪な様に文句を言うも、商売人と話していた時の事を持ち出されては何も言えない。
囁き落とされた声に耳の縁がぞわぞわした心地を覚えて肩を竦め、凪は不満げに眉根を寄せた。

「急によく分からない設定持ち出されたら、誰だって戸惑いますよ。せめて先に言ってくれれば良かったのに」
「臨機応変、という言葉を呑気な仔犬に教えてやろう。良かったな、これで一つ賢くなった」
「そのくらいわかりますよ!言葉を知ってるのと行動に表すのじゃ、全然違います」

小馬鹿にしたそれへ顔を上げて噛み付くも、光秀は意に介した様子はない。凪の反論を面白そうに聞いていた男は、やがて普段の調子のまま、しかし淡々と音を紡いだ。

「下手に取り繕えば疑いが増すだろう。いっそ大胆にやり切ってしまった方が、却って怪しまれないというものだ。そうしている内に逃げ道を探り、活路を開く事も時には必要となる。今回の任は、その良い経験になるだろう」
「…光秀さんとこうしてくっ付いてる事がですか?」
「ああ、そうだな。男を隠れ蓑にするという方法も、お前のような小さな仔犬には案外有効な手段かもしれん」
「…本当ですかね」

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