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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



光秀の説明を耳にしながら凪は思考を巡らせた。昔の価値と現代の価値ではだいぶ異なるのだろうが、茶の湯がそこまで人気だとは初耳だ。ぱちぱちと双眸を瞬かせつつ聞いている彼女へ視線を一度向け、微かに口元を綻ばせる。

「かつて堺で銘器狩りとまで言われた信長様がご多忙になられた事もあり、近頃は俺と秀吉がその買い付けを行っていた。その主な商談相手が、静殿の実家である由屋(ゆかりや)だ」
「なるほど…それでお静さんと知り合ったって事ですか」
「そういう事だ」

光秀が、というより商談中の茶汲みの折に何度か顔を合わせている内にお静が熱を上げたのだろう、という事はそこまで聞けば凪とて想像は出来た。一先ず、勘繰るような関係でなくて良かった、と内心安堵する傍らで先程の小間物屋でのやり取りを思い出す。お静にこれ以上妙な気を持たせない為とはいえ、人前であの態度はいかがなものか。若干眉根を寄せた凪は、光秀の横顔を見上げる。

「事情は把握しましたけど、人前でああいう態度は良くないですよ」
「……ん?」

凪が言っている意味を分かっているのか、いないのか、短い音を紡いで男が軽く首を傾けた。

「ん、じゃなくて。ああいう…なんていうか、いかにも恋仲です、みたいな感じの…」
「俺は何ひとつ嘘はついていないがな」
「え……それは、嬉しいですけど…」

────どちらかと言えば、俺がすっかりこの娘に骨抜きにされているもので。

涼やかな調子でさらりと言われ、凪は思わず虚を衝かれた様子で一度言葉に詰まる。忙しなく顔を逸らし、言葉尻を小さくしながら呟きを零すと同時、先程店内で告げられた言葉が脳裏へ蘇って、頬が朱を帯びた。どきどきと逸る胸の内を持て余し、凪がすっかり静かになってしまった様を見て、男は愉しそうにそっと口角を持ち上げる。基本的に素直ではないが、こういう初心な反応は想いを通わせてから見られるようになった凪の表情のひとつだ。困ったように押し黙る愛らしい連れ合いに目元を綻ばせた光秀はやがて、一度その瞼を閉ざして切り替え、凪へ改まった声をかける。

「凪」
「は、はい?」
「初陣を頑張ったお前へのご褒美として、楽しませる為に連れて来たつもりだったんだが」

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