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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



彼女の面持ちが柔らかく綻び、はにかんだ笑顔が向けられる。夕暮れが近付く傾いた日は明るいが、ほんのり落ちた薄い影と光に照らされ、凪の白い面に薄っすら赤みが差しているように見え、光秀の口元がそっと笑みを形作った。
貫庭玉(ぬばたま)の髪を華やかに彩る花はよく凪に映える。歩く度、あるいは微かな夏風によってふわふわと揺れる連なった蘭の花と、凪を見つめ、光秀が絡めた指先に優しく力を込める。

「………気になるか?」
「え?」

不意に数拍分の間を置いた後、光秀が端的に問いかけた。一瞬何の事か理解出来なかった凪が眼を瞬かせると、男がちらりと金色の眸を凪へ流す。

「静殿の事だ」

告げられて、どきりと鼓動を跳ねさせた。光秀がまったくもって思わせぶりどころか、脈無しの態度を取っていた事もあり、そういう妙な意味での心配をした訳ではないのだが、関係性は当然気になる。ただ、あまり根掘り葉掘り訊くのもよくないかと、妙な遠慮をしていた事も確かで、光秀にはそんな凪の感情などすっかり見抜かれてしまっていた。

「…まあ、気にならないと言ったら嘘になりますけど。教えてくれるんですか?」
「わざわざ隠すような事ではないからな」

色々とはぐらかしたり、誤魔化したりする事の多い光秀にしてはやけにきっぱりとした言い草である。複雑そうな面持ちを浮かべて言葉に一瞬詰まった凪がちらりと相手を窺えば、男は淡々とした面持ちのままで口を開く。

「信長様は茶の湯が流行りである昨今を鑑み、逸早く茶器の存在に目を付けられた」
「茶の湯……茶道っていうか、お抹茶の事?」
「ああ、武功を上げた武将への褒美として銘のつく茶器を与え、その者達の士気を高める手段に用いられたという訳だ」
「ご褒美が茶器って、なんか凄いですね。普通はお金とかお米かなって思いますけど…」
「それだけ、皆茶の湯に熱を上げているという事だろう」
「へえ…光秀さんも茶の湯、やるんですか?」
「必要手段として身に付けはした」

(なんかこう…お高い美術品を貰うような感覚かな?分かる人にはその価値が分かる、みたいな…。というか光秀さんもお茶点てたりするんだ…)

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