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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「光秀様が…骨抜き、ですか。それでは睦まじくて当然というものです。……私、用事を思い出しましたので、これで失礼致しますね。近い内、ぜひまた我が家へいらしてくださいませ」
「是非、お父上にも宜しくお伝えください」
「ええ…それでは失礼致します」

段々と深まる眉間の皺を持て余し、ついには怪訝な色を覗かせたお静が、光秀の言い分へ必死に頷きつつ自らを納得させるようにした後、明らかに嘘だと分かるタイミングで話を切り替えした。当然引き止める理由もない光秀は、至極無難な挨拶をかけた後で微笑する。美しく端正な面に浮かぶ笑みは完璧そのものであり、もう何も突っ込む事が出来ないお静は、凪には一瞥もくれる事なく丁重に頭を下げて店を出て行った。

「………嵐でしたね」
「光忠程ではないだろう」
「私にとってはそこそこの衝撃でしたよ」

あわや修羅場か、と見守っていた店内の町人達の感情を総合して代表するかの如く、凪がぽつりと呟く。腰に回していた腕で凪のそこをひと撫でした光秀は、腕を離すと緩く肩を竦めた。光忠もなかなかのインパクトだったが、お静もそれなりに濃い。この時代は濃い人間ばかりだな、などと考えながら溜息を漏らすと、光秀によって自然にその手が繋がれる。まったく本人達の所為ではないが、店を騒がせてしまった事は事実であり、買い物も終わった今、いつまでもここに留まる訳にもいかない。

「店主、騒がせてすまなかったな」
「いえいえ、是非またいらしてくださいませ」

凪の手を、指を絡める形で握った後で光秀が奥に居る店主へ振り返り、謝罪を紡げば老齢な男は笑顔で頭を下げた。光秀に倣って凪も隣で頭を下げた後、小間物屋を後にした二人は再び並んで城下の通りへ出る。

そう長い時間滞在していた訳ではないが、先程のお静の件があった事もあってそこそこの時間が経ったような感覚に陥っていた。歩調を合わせて歩いてくれる光秀に対し、ふと思い出したらしい凪が顔を上げる。

「そういえば、ちょっと色々あって言いそびれてましたけど…簪、ありがとうございました」
「ああ」

お静が現れてからの一連の流れで髪に挿された為、すっかりタイミングを見失っていたが、凪は片手で芙蓉の隣に添えるよう挿された蘭の簪にそっと触れた。

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