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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 軍議と側仕え



石田三成は、織田軍の中では出会った当初から凪へ友好的な態度を示してくれていた唯一の人物だ。
女性受けする事うけあいである、甘やかなかんばせを曇らせた彼は本気で凪の心身を案じているようで、そっと瞼を伏せる。
そんな三成の様子を正面に捉えながら、どこかうんざりとした面持ちで嘆息したのは、安土城に着いた政宗と共に馬上にある凪を一瞥するなり、弱そうな女、とばっさり切り捨てた男───徳川家康だった。

「…まあ政宗さんの言う通り、確かにこんな弱そうな女が信長様暗殺の手引きなんて出来るとは俺も思いません。むしろアンタ、信長様を助けた時、怪しい奴とか見かけなかったの?」
「怪しい奴…ですか?」

目撃情報について改めて問われ、凪は眼を瞬かせる。
あの時は朝方に【見た】光景と目の前の現実が同じものであった事に困惑し、尚且つ柱に凭れて目を閉ざしていた信長の存在に気を取られ、周りを気にかける余裕なんて微塵もなかった。
ただ一つ残っているのは。

(しゃらんって、金属みたいな音が近くでしたような気がしたけど…それだけじゃあなあ…)

耳に残ったのはなんの音か判別できない、高い金属音だけだ。黒煙と炎で視界も悪く、よくあの中から信長を引っ張り出せたものだと自分でも感心すらしてしまう。

「すみません…、とにかく外へ逃げる事に必死だったので、これといった手掛かりはないです」
「…やはりな」

凪の返答は予想出来ていたのか、信長が低く呟いた。恐らく彼も同じ状況下に置かれていた為、同意せざるを得なかったのだろう。それ程までに、酷い大火であった。
沈黙に満たされた室内で、凪は1度も口を開いていないある人物へそっと視線を向ける。

広間では上座の信長を中心に左右に割れ、向き合う形で末座まで武将達が分かれて並んでいた。正面から捉えて信長の右側には秀吉が座しており、凪はその並びの端に座っている。
よって、凪が視線を向けた相手は秀吉とは反対の位置、信長の左側へ静かに控えていた。ちょうど斜めに見やれば映り込む位置に居るその人の名を凪が脳裏で過ぎらせた直後。

(─────ッ…!?)

ばちり、と淡く金色に輝く眸が凪の黒眼とぶつかり合う。

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